・・・「おやおやみんな改宗しましたね、あんまりあっけない、おや椅子も丁度いい、はてな一つあいてる、そうだ、さっきのヒルガードに似た人だけまだ頑張ってる。」 なるほどさっきのおしまいの喜劇役者に肖た人はたった一人異教徒席に座って腕を組んだり・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その投資を出来るだけ利まわりよく回収するためには、一冊の雑誌が高くてもどっさりうれるようにしなければならず、売れる、ということのためには、日本の人口の大部分を占める人々――大衆のこのみに合うことが必要となって来る。大衆のこのみとはどういうも・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ カールの六歳の時、マルクス家は改宗して、ユダヤ教からプロテスタントになった。 二 イエニーとの結婚――ベルリン時代―― カールにゾフィーという一人の姉があった。このことは、彼の一生にはからずも深い意味をも・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・中国から帰って来た教育家たちが、教会で神学作興資金の演説をしたあとでは、きまって天錫を壇上に呼び上げて、会衆に紹介する。「『之が、我々の教育で出来た中国の青年です。ごらん下さい』と云わんばかりです。これは猿まわしみたいなものではないですか」・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・殊に、社会生活の実力に乏しい女性が、多くの場合その結果を自己の力では到底回収し得ない、或る瞬間、或る期間の必死な狂暴性で事を為すことは、悲惨という以上に感ぜられる。〔一九二一年十二月〕・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・それぞれの報告は、それとして熱心であり、勉強されており、発展的なモメントをふくんでいながら、会衆の精神をめざまし、情感をかきたて、民主主義文学のために努力しているものとしての歓喜や勇気を感じさせる統一的な熱量を欠いていたことである。一つ一つ・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・パイプオルガンが時々鳴った。会衆は樫の腰かけから立ったり坐ったりしてアーメンと云った。子供が自分の退屈をまぎらすため、脱いだ帽子を体の前に行儀よく持って立ちながら下を向いて、できるだけ踵を動かさず靴の爪先をそろそろ重ねる芸当を試みている。眼・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 様々に描き、予想し、もう自己の内部を絶頂まで披瀝して当ったのですから、彼方此方で意外な齟齬に出会っても、自己を回収することすら容易でない。自分で自分の手にあまる廻りからは、どんどん新たな、決して、私の有るべきという範疇では認めていなか・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫