・・・その社会主義的リアリズムの創作方法の理論は、不幸にして日本につたえられた時期が、そういうプロレタリア芸術運動の潰走期であったために、忽ち、これまでの日本プロレタリア芸術運動の方針を否定する便宜な口実として逆用された。蔵原惟人、小林多喜二、宮・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・逆にどんな澎湃たる歴史の物語もそこに関与したそれぞれの社会の階層に属す人間の名をぬいて在ることは出来ないという事実の機微からみれば、たとい草莽の一民の生涯からも、案外の歴史の物語が語られ得る筈である。 このことは明瞭に大正初期に見られた・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・文学のうまれる母胎としての社会の階層・階級を、勤労するより多数の人々の群のうちに見いだし、社会の発展の現実の推進力をそれらの勤労階級が掌握しているとおり、未来の文化発展も、そこに大きい決定的な可能として潜在していることを理解したのであった。・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・万葉集は当時のあらゆる階層の女の人のよい作品を集めている。女帝から皇女、その他宮廷婦人をはじめ、東北の山から京へ上った防人とその母親や妻の歌。同時に遊女、乞食、そういう人までが詠んだ歌を、歌として面白ければ万葉集は偏見なく集めている。日本の・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 荷馬車が二台ヨードをとる海藻をのせて横切る。 男の児が父親に手をひかれて来る 男の児の小さい脚でゴム長靴がゴボゴボと鳴った。〔欄外に〕 ウインネッケが二十七日地球に最も近づく。前日の百五十三万里に比して三万里近くなって・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・作者の社会人としての感覚、歴史に対する積極的な参与を自覚しない客観主義は、いわば十九世紀の自然主義のぬりかえにすぎず、社会を客観的に見てあらゆる社会階層の現実とその発展を描破しようとする民主主義文学でないことは明瞭です。 石川達三、林房・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・インテリゲンツィアをどけて、今、働いている人々、中小商工業者、学生などという社会階層の姿、即「勤労者」とする柵は現象的であったし、あいまいでもある。 新しいファシズムに対して、どんな形で平和へのたたかいがはじまっているかということをみて・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・安積で死ねば改葬だ何だと無駄な費をかけないですむから、おりゃあ……」「いやなお祖母様!」 私が無遠慮に、祖母の言葉を遮るのが常であった。「そんなことをおっしゃると、みんな心持がわるくなってよ。ただおりゃあ安積へ行きたくなったごん・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・旅費の関係からだけでも、これまでの日本で外国生活を経験している人の種類は多く中流以上の階層だった。その事実は、きょうでもまだ日本の一般人の国際的な動きを制約している。そのために、今日外国を見て来るほんの少数の人は、何とはなし特別なもの知りの・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・芸術の分野で多くの要素を占めている小市民的な階層の作家たちの心情は、進歩的な人はつねに古いものの圧力と戦う意識をもっているけれども、戦いかたにおいて大変主観的であるということは、文学も美術も共通でしょう。 あの展覧会にあった赤松俊子さん・・・ 宮本百合子 「第一回日本アンデパンダン展批評」
出典:青空文庫