・・・ そんなことがあるかいな」「だっておかはん、あて勘定してたもん」 哀れ。考え違い。 舞姫などこのように、情慾も、好奇心もないのに、そういう目に会う。 のち、男にひかされ、ひどい生活を五年する――男、口入の一寸よいの。いつも、・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・可愛くてたまらない声でネー……おばさは大きい鉄ふちのめがねをチャンとかけなおしガラガラ声でこう云った、西のなまりでこう云った 「違いますぞナ、こりゃあんた テントムシダマシヤ ないかいな」私は目玉をクルクルと三つ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ただいとうにはゆるは彼方の親切にて、ふた親のゆるしし交際の表、かいな借さるることもあれど、ただ二人になりたるときは、家も園もゆくかたものういぶせく覚えて、こころともなく太き息せられても、かしら熱くなるまで忍びがとうなりぬ。なにゆえと問いたも・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・「もうそんなになるかいな、幾つやな、そうすると四十?」「四十二や。」「四十二か。まあ厄年やして。」「厄年や、あかん、今年やなんでも厄介にならんならん。」「そうか、四十二か、まアそこへ掛けやえせ。そして、亀山で酒屋へ這入っ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫