・・・ それで芸術家が神来的に得た感想を表わすために使用する色彩や筆触や和声や旋律や脚色や事件は言わば芸術家の論理解析のようなものであって、科学者の直感的に得た黙示を確立するための論理的解析はある意味において科学者の技巧とも見らるべきものであ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・屑のような論文が百も出るうちには一つくらいは少しはろくなものも交じる確率があり、万人の研究者の中には半人くらいは世界的の学者を出すプロバビリティーがあるかも知れない。それで、何かしら一つ仕事をすれば学位が必ずとれるとなれば志望者も自ずから増・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・この数を N(VC) で表わす。するとこの中である特定の一つの子音、たとえばSならSが出現するという事のプロバビリテーはいくらか。この確率は可能な子音の種類の数の逆数となる。それで全然偶然的暗合ならば現われるべきこの型の火山名の数nは N(・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・火事の災害の起こる確率は、失火の確率と、それが一定時間内に発見され通報される確率によって決定されるということも明白に認められていない。火事のために日本の国が年々幾億円を費やして灰と煙を製造しているかということを知る政府の役人も少ない。火事が・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・ところが、抵抗力の強い人は罹病の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪くなる。そうしていよ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・這入るときに置いた吸いさしが、出るときにその持主の手に返る確率が少なくも一九一〇年頃のベルリンよりは少ないであろう。しかし大戦後のベルリンでこのシガーの供待所がどういう運命に見舞われたかはまだ誰からも聞く機会がない。 ベルリンでも電車の・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・陶工の得た名声や利得が大きければ大きいほど、こういう事件の持ち上がる確率が大きいようである。 文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。 哲学者科学者皆そうである。ア・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ちょっと考えるとある地方で大地震が数年以内に起こるであろうという確率と、あるつり橋にたとえば五十人乗ったためにそれがその場で落ちるという確率とは桁違いのように思われるかもしれないが、必ずしもそう簡単には言われないのである。 最近の例とし・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・そうしてそのおのおのが七曜日のいずれに起こる確率も均等であると仮定すれば、三度続けて金曜日に起こるという確率は七分の一の三乗すなわち三百四十三分の一である。しかしこれはまた、木曜が三度来る確率とも同じであり、また任意の他の組み合わせたとえば・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ この二つの実例から見ても新聞記事にはちゃんとした定型が確立されていて、いかなる場合にでもそれを破ることが禁ぜられているらしく思われるのである。自分らのようなつむじ曲がりの読者にとっては、むしろ来るはずの大臣がその日来なかったという偶然・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
出典:青空文庫