・・・が、これまでの歴史性による社会感覚の欠如から、今日における自分の発展と創造力更新のモメントを逃がしているように、日本の人民は、智慧と判断を否定し、声をおさえる政策のために、明日死ぬかもしれないその夜の家信でさえ、無事奉公しています、とより書・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・作品の縦糸としては、細川忠利と家臣阿部彌一右衛門との間にある永年の感情的なしこりが、性格と性格との間に生じるさけがたい共感と反撥の姿として周密にとりあげられている。細川忠利は、初めは只なんとなく彌一右衛門の云うことをすらりときけない心持で暮・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 正坐にかまえて都人の華奢な風を偲ばせて居るのは殿、その下坐に弟君、かかり人までこの宴にもれず、仮面もかぶらずにひかえて居る、それからは年の順、役の順に長年忠義劣りない家の子、家臣の一番上坐に、殿のみどり子の時からつかえて今に尚、この頃・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・松尾宗房と云い、伊賀国上野町の城代藤堂家の家臣で、少年から青年時代のはじまりはその城代の嫡子の近侍をしていた。既にその時代、俳諧は大流行していて若殿自身蝉吟という俳号をもって、談林派の俳人季吟の弟子であった。宗房もその相手をし早くから俳諧に・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・四男勝千代は家臣南条大膳の養子になっている。女子は二人ある。長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長の妻になる人である。弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・内容は、武田信玄の家法、信玄一代記、家臣の言行録、山本勘助伝など雑多であるが、書名から連想せられやすい軍法のことは付録として取り扱われている程度で、大体は道徳訓である。この書がもしその標榜する通りに成立したものであるならば、『多胡辰敬家訓』・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫