・・・授与恐怖病」の発生を見るに到りはしないかという心配の種が芽を出すことである。細心にして潔癖なる審査員達は「濫授」「濫造」の声に対して敏感ならざるを得ないのである。授与過剰の物議よりは、まだしも授与過少の不平の方が耳触わりの痛さにおいて多少の・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・それが過剰になると憂鬱になったり感傷的になったり怒りっぽくなったりするし、また、過少になると意気銷沈した不感の状態になるのでないかと思われる。そこで分泌が過剰でもなく過少でもない中間のある適当な段階のある範囲内にあるときが生理的に最も健全な・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・ 自分の五十年の生涯の記録の索引を繰って杏仁水の項を見ると、先ずこの二つの箇条が出て来る。 近来杏仁水の匂のする水薬を飲まされた記憶はさっぱりない。久しく嗅がなかった匂であったために、今このアイスクリームの匂の刺戟によって飛び出した・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・ しかしそのような過剰の許されない境遇としては、樹木のほうは割愛しても、芝生だけは作らないではいられなかった。そうして木立ちの代わりに安価な八つ手や丁子のようなものを垣根のすそに植え、それを遠い地平線を限る常緑樹林の代用として冬枯れの荒・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・らなくてもさもおかしそうに笑っている人を見れば自分も笑いたくなると同様に、上手な俳優が身も世もあられぬといったような悲しみの涙をしぼって見せれば、元来泣くように準備のととのっている観客の涙腺は猶予なく過剰分泌を開始するのであって、言わば相撲・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・何とかいう芝居で鋳掛屋の松という男が、両国橋の上から河上を流れる絃歌の声を聞いて翻然大悟しその場から盗賊に転業したという話があるくらいだから、昔から似よった考えはあったに相違ない。しかしまた昔はずいぶん人の栄華を見て奮発心を起して勉強した人・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・もしこの丙電車が規定よりc時間遅れたとしても、乙が遅れなかった場合よりはやはり nb だけ過剰収容数が減るわけである。もし丙が規定よりcだけ早ければ、この電車は n(b+c) だけ少ない人数を収容しただけで発車ができる。この結果はどうなるか・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
毎朝起きて顔を洗いに湯殿の洗面所へ行く、そうしてこの平凡な日々行事の第一箇条を遂行している間に私はいろいろの物理学の問題に逢着する。そうしていつも同じようにそれに対する興味は引かれながら、いつまでもそのままの疑問となって残・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・ろうということも想像できるのであるが、それと同じように文化的要素の進化の道程における突然変異もまたその時代におけるいろいろな外的条件に支配されるものであって紫外線X線の放射、電流の刺激、特殊化学成分の過剰あるいは欠乏といったようなものに相当・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・ ナイルの洪水の問題についても四箇条のオルターネティヴがあげてある。この四箇条などは、おそらく今でもどこかの川について地文学者のだれかが月並みに繰り返しつつあるものと全然同様である。 次には毒ガス泉や井戸水の問題がある。井水の温度に・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫