・・・というヒルファーディングの言葉どおり 自分ら中間勤労者をも含む資本主義体系の内的法則から起るものであるという現実を後方に押しやり、その現実が必然に課する歴史的任務を自分の前から押しのけようとするのである。 ――○――・・・ 宮本百合子 「「若い息子」について」
・・・福岡日日新聞が予に文壇の評を書けと曰うのは、我筆舌に課するに我思想の圏外の事を以てするのだ。予には文壇の評と云うものの書けぬことは、これで明であろう。そこで予は切角の請ながら、この事をば念頭に留めなかった。然るに主筆はまた突如として来られて・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・小指の爪で一寸擦ると、「こりゃ姉やんに持って来いやがなア。」と云いながらまた奥の間へ這入っていった。十 安次の小屋が組から建てられることに定ったと知ったとき、勘次は母親をその夜秋三の家へ送ったことを後悔した。しかし、今は・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫