・・・ 此から幾年か居る、その家を貸すものに、唯利害関係からではなく、真個に人の世の生きるらしい友情と好感とを以て接して行けると云うことは、特別、家主、店子の関係に於て嬉しく思われたのである。 幾度も本郷、牛込、青山を往復し、家は、遂に我・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ この場合、松田氏は、自身の創作的態度をますます今日の現実の核心に触れ、作品を通じて更に現実に働きかえす力をもつものとするよう、階級的な作家として必要な鍛練を自身に課す気組みにおいて云っておられるのは明らかなことと思う。 この短い文・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・不幸にも、ふたたびヨーロッパが戦場に化すようなことがおこるとしても、わたしたちの考えは変らない。それは戦争は根絶されるべきものであり、世界は平和をもたなければならない、という信念である。 こまかい活字で三段にくまれていたそのフランス女学・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・このごろこの土地を人買いが立ち廻るというので、国守が旅人に宿を貸すことを差し止めた。人買いをつかまえることは、国守の手に合わぬと見える。気の毒なは旅人じゃ。そこでわしは旅人を救うてやろうと思い立った。さいわいわしが家は街道を離れているので、・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫