・・・が、従来よりはやや科学的な根拠の上に仮設される。さすれば次には、前にAについて行なったと同様の方法を、今度はBについて行なうべきである。そうしてともかくも、BCという、「次の輪」の見当をつける。順次かくのごとくして、できるならばまた、世界の・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・しかしあらゆる方則は元来経験的なもので前世の約束事でもなんでもない事を思い出せば素量仮説が確立した方則となりえぬという道理もない。もし素量説が勝利を占めて旧物理学との間の橋渡しができればどうであろうか。おそらくそのために従来の物理学がことご・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・実行はむつかしいが、こういう仮設を前提として一つの思考実験を行なってみる事は、はなはだおもしろくもあり有益でありはしまいか。もっともそんな事はもう社会学者や経済学者たちがとうの昔にやってやり古した事かもしれない。たぶんそうだろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・物質の不連続的構造はもはや仮説の域を脱して、分子や原子、なおその上に電子の実在が動かす事の出来ないようになった。その上にエネルギーの推移にまでも或る不連続性を否む事が出来なくなった。生物の進化でも連続的な変異は否定されて飛躍的な変異を認めな・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ 電火の驚くべき器械的効果は、きわめて微細なる粒子が物質間の空隙を大なる速度で突進するによるとの考えは、近年のドルセーの電撃の仮説に似ている。またここのルクレチウスの記述には、今の電子を思わせるある物もある。電火によって金属の熔融するの・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・この比較の当否は二段としても、試みにこういう考えを仮設してもう少し比較を進めてみたらどうなるか。 まず第一楽章六句はおのずから温雅で重厚な気分に統一されている場合が多いようである。ここでは神祇釈教恋無常の活躍は許されない。テンポで言えば・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 以上ははなはだ未熟な分析の試みであったが、このような見方を一つの作業仮説として実際の古人の連句中の代表的なものに応用してみることは、連句の研究上に一つの新断面を劈開するだけの効果はありはしないかと思われる。ここで実例について詳説するこ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ この仮説が確かめられる時は、自分の神経の弱さ、腹の弱さ、臆病さの確かめられる時であるというのはきわまりなく不愉快な恥ずかしい事である。しかし同時にその弱さの素因がいくらか科学的につきとめられて従ってその療法の見当がつくとすれば、それは・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・成島柳北が仮名交りの文体をそのままに模倣したり剽窃したりした間々に漢詩の七言絶句を挿み、自叙体の主人公をば遊子とか小史とか名付けて、薄倖多病の才人が都門の栄華を外にして海辺の茅屋に松風を聴くという仮設的哀愁の生活をば、いかにも稚気を帯びた調・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・情景のまざまざととらえられ感情化されている作品として、「橋梁架設工事」「生活の脈動」「町工場」「シベッチャの山峡」「下水工事場」「三河島町風景」「無題」などの中に、いくつか印象のつよい作がありました。山田清三郎が獄中からよこす歌には何とも云・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
出典:青空文庫