・・・この次この人の『科学と仮説』を入れましょう。こちらの訳をしたひとは平林氏ではないから文体も違っているでしょう。私はこの偉い人の『科学の価値』という本の手ずれた表紙を常に親愛をもって眺めていたが、それはその手垢に対する主観的親愛に止っていたの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ わがザックセン軍団につけられて、秋の演習にゆきし折り、ラアゲウィッツ村のほとりにて、対抗はすでに果てて仮設敵を攻むべき日とはなりぬ。小高き丘の上に、まばらに兵を、ザックセン、マイニンゲンのよつぎの君夫婦、ワイマル、ショオンベルヒの両公・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・「あれは仮設が間違っているのですよ。仮設から仮設へ渡っているのがアインシュタインの原理ですから、最初の仮設を叩いてみたら、他がみな弛んでしまって――」 空中楼閣を描く夢はアインシュタインとて持ったであろうが、いまそれが、この栖方の検・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫