・・・このことにかんしましてはマハン大佐もいまだ真理を語りません、アダム・スミス、J・S・ミルもいまだ真理を語りません。このことにかんして真理を語ったものはやはり旧い『聖書』であります。もし芥種のごとき信仰あらば、この山に移りてここよりか・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 露子はつばめに、その船は赤い筋の入った船で、三本の高いほばしらがあることから、自分の見た記憶のままを、いちいち語り聞かせたのであります。 すると、つばめは、またくびをかしげて、この話を聞いていましたが、「その船なら、私はよく知・・・ 小川未明 「赤い船」
・・・当人にしかおもしろくないような子供のころの話を、ポソポソと不景気な語り口で語ってみたところでしかたがない。嘘でなきゃあ誰も子供のころの話なんか聞くものかという気持だったから、自然相手の仁を見た下司っぽい語り口になったわけ、しかし、そんな語り・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 一番はしの家はよそから流れて来た浄瑠璃語りの家である。宵のうちはその障子に人影が写り「デデンデン」という三味線の撥音と下手な嗚咽の歌が聞こえて来る。 その次は「角屋」の婆さんと言われている年寄っただるま茶屋の女が、古くからいたその・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・もあらず、いろいろ独りで考えた末が日ごろ何かに付けて親切に言うてくれるお絹お常にだけ明かして見ようとまずお絹から初めるつもりにてかくはふるまいしまでなり、うたてや吉次は身の上話を少しばかり愚痴のように語りしのみにてついにその夜は軍夫の一件を・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・に立って、往来の大衆に向かって法華経を説いた。彼の説教の態度が予言者的なゼスチュアを伴ったものであったことはたやすく想像できる。彼は「権威ある者の如く」に語り、既成教団をせめ、世相を嘆き、仏法、王法二つながら地におちたことを悲憤して、正法を・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・くものもあり、また滝へ直接にかかれぬものは、寺の傍の民家に頼んでその水を汲んで湯を立ててもらって浴する者もあるが、不思議に長病が治ったり、特に医者に分らぬ正体の不明な病気などは治るということであって、語り伝えた現の証拠はいくらでもある。君の・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・以下すこしくわたくしの運命観を語りたいと思う。 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・觀世善九郎という人が鼓を打ちますと、台所の銅壺の蓋がかたりと持上り、或は屋根の瓦がばら/\/\と落ちたという、それが為瓦胴という銘が下りたという事を申しますが、この七兵衞という人は至って無慾な人でございます。只宅にばかり居まして伎の事のみを・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・その日のおげんは台所のしちりんの前に立ちながら、自分の料理の経験などをおさだに語り聞かせるほど好い機嫌でもあった。うまく煮て弟達をも悦ばせようと思うおげんと、倹約一方のおさだとでは、炭のつぎ方でも合わなかった。 おげんはやや昂奮を感じた・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫