・・・唖々子は高等学校に入ってから夙くも強酒を誇っていたが、しかしわたしともう一人島田という旧友との勧める悪事にはなかなか加担しなかった。然るにその夜突然この快挙に出でたのを見て、わたしは覚えず称揚の声を禁じ得なかったのだ。「何の本だ。」とき・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・ そこで軽便鉄道づきの電信柱どもは、やっと安心したように、ぶんぶんとうなり、シグナルの柱はかたんと白い腕木を上げました。このまっすぐなシグナルの柱は、シグナレスでした。 シグナレスはほっと小さなため息をついて空を見上げました。空には・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・それは、客観的には、非民主的諸勢力への加担を結果することである。「一連の非プロレタリア的作品」を思い出させることで、わたしの現在での活動や発言を牽制する効果を期待するとすれば、それは不可能である。 あの評論にふくまれている誤謬は、プロレ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 空巣の加担をし※品を質屋へ持って行って入れられている五十婆さんが舌うちした。「あたし、世の中にこういうとこの人たちぐらいいやな男ってないわ」 横坐りをしている若い女給が伊達巻をしめ直しながら溜息をついた。「刑事なんぞここじ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・或は、今日における科学と科学者との弱い部分、非科学的な部分、内部的分裂面が文化反動に影響され、客観的には、知性、人間性の圧殺に加担したことになりやすい。今日はその危険に対する自他ともの慎重な戒心が決して尠くてよい時期ではないのである。〔一九・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・の中で一郎が道徳に加担するものは一時の勝利者であり、自然に立つものは永遠の優者であるということを男女のいきさつについて云っている。漱石の作品のなかでは、偽りを未だ知らない若い女の可憐さが才走った女たちと対比的に描かれているが、人妻となってい・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・慶長五年七月赤松殿石田三成に荷担いたされ、丹波国なる小野木縫殿介とともに丹後国田辺城を攻められ候。当時田辺城には松向寺殿三斎忠興公御立籠り遊ばされおり候ところ、神君上杉景勝を討たせ給うにより、三斎公も随従遊ばされ、跡には泰勝院殿幽斎藤孝公御・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・お二人が首尾好く本意を遂げられれば好し、万一敵に多勢の悪者でも荷担して、返討にでも逢われれば、一しょに討たれるか、その場を逃れて、二重の仇を討つかの二つより外ない。足腰の立つ間は、よしやお暇が出ても、影の形に添うように離れぬと云うのであった・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫