・・・事件は内済にするには彼の負担としては過大な治療金を払わねばならぬ。姻戚のものとも諮って家を掩いかぶせた其の竹や欅を伐ることにした。彼は監獄署へ曳かれるのは身を斬られるよりもつらかった。竹でも欅でも何でも惜しくないと彼は思った。だが其頃はまだ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
世界はそれぞれの時代にそれぞれの課題を有し、その解決を求めて、時代から時代へと動いて行く。ヨウロッパで云えば、十八世紀は個人的自覚の時代、所謂個人主義自由主義の時代であった。十八世紀に於ては、未だ一つの歴史的世界に於ての国家と国家との・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・私がかつて歴史的世界は課題において自己同一を有つといったことも、此から理解せられるであろう。右の如くなるを以て、すべて我々の真理探求は、否定的分析、懐疑的自覚といってよい。科学は単なる判断的否定でもなければ、分析でもない。科学的否定とは、行・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・からのち、益々解放運動とその文学運動の中心課題にてい身してゆくにつれ、論策も主としてプロレタリア文化・文学運動の基本的方向の提示とその科学的な方法論にうつって行ったことは現実と実感の必然であった。 短い月日の間に、はげしく推移する情勢に・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・あるにしても、唯一つ、最も基本的で共通な点は、民主社会においては、婦人が、全く人口の半分を占める男子の伴侶であって、婦人にかかわるあらゆる問題の起源と解決とは常に、男子女子をひっくるめた人民全体の生活課題として、理解され、扱われるということ・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・その純粋に経験された場合として、愛らしい夏子と村岡と夏子の死が扱われているわけなのだが、今日の時々刻々に私たちの生に登場して来ている愛と死の課題の生々しさ、切実さ複雑さは、それが夏子を殺した自然と一つものでないというところにある。 今日・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・ ルポルタージュの問題と共に、必然的に歴史的諸相の評価の課題が、甦って来ざるを得ないというのは、何と微妙な現実であろう。それに関連する創作方法の問題として、リアリズムの実践も深めなければならなくなって来るのである。 平和が齎されたと・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・けれども、いまやっと、人間の基本的人権の確立がいわれるようになったとき、日本の知識階級の若い女性たちは、自分たちめいめいの運命の開花の問題として民主主義社会建設の課題を、どのように真剣にとりあげはじめているであろうか。自分の才能の達成と、愛・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・る気持とを互に知りあい信じあうこと、そして遺憾のない人間の生き方が、一つでも殖える可能のある社会条件を自分たちの一生のうちにつくってゆこうとする協力、人間は歴史的な存在であるから、私たちの協力も歴史の課題から抜け出ることはない。世界が連合国・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・の中で最も中心的に語られたのは、この協力の課題であった。けれどもあの時には人々の心にそれは特殊なものとしてうけ取られていた。 今日新しい社会的な環境の中で、両性の協力ということを友情や、恋愛の感情の基本にあるものとして、一般がとり上げ初・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
出典:青空文庫