兄妹、五人あって、みんなロマンスが好きだった。長男は二十九歳。法学士である。ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・佐吉さんがどんな我儘なふしだらをしても、お母さんは兄さんと喧嘩してまでも、末弟の佐吉さんを庇うわけだ。私は花火の二尺玉よりもいいものを見たような気がして、満足して眠ってしまいました。三島には、その他にも数々の忘れ難い思い出があるのですけれど・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・まして、新憲法に依って男女同権がはっきり決定せられましたようで、まことに御同慶のいたり、もうこれからは、女子は弱いなどとは言わせません、なにせ同権なのでございますからなあ、実に愉快、なんの遠慮も無く、庇うところも無く、思うさま女性の悪口を言・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ひとに接するとき、少し尊大ぶる悪癖があるけれども、これは彼自身の弱さを庇う鬼の面であって、まことは弱く、とても優しい。弟妹たちと映画を見にいって、これは駄作だ、愚作だと言いながら、その映画のさむらいの義理人情にまいって、まず、まっさきに泣い・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・という小説は、作品としては問題にするべきいくつかの点をもっているけれども、あのころ、わが身を庇うために、日本の知識人がどのくらい自負をすて卑劣になり、破廉恥にさえなっていたかという姿だけは、示しえている。 個人の問題ではなく、文学の置か・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
出典:青空文庫