・・・という駅があったようだと子供達と話していたら、国府津駅の掲示板を見ていた子供の一人からそれは「鴨の宮」だという正誤を申込まれた。その子供の話によると、「ワシントン」という靴屋を間違えて「ナポレオン」と云った友達がいるそうである。しかし雀と鴨・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・や「金鍔」や「加茂の社」のごときはなかなか容易に発見されるような歯車の連鎖を前々句に対して示さない。また『鳶の羽』の巻でも芭蕉の「まいら戸」の句「午の貝」の句のごとき、なんでもないような句であるが完全にこのアタヴィズムの痕跡を示さない。これ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・カステラや鴨南蛮が長崎を経て内地に進み入り、遂に渾然たる日本的のものになったと同一の実例であろう。 自分はいつも人力車と牛鍋とを、明治時代が西洋から輸入して作ったものの中で一番成功したものと信じている。敢て時間の経過が今日の吾人をして人・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・原に真葛、川に加茂、山に比叡と愛宕と鞍馬、ことごとく昔のままの原と川と山である。昔のままの原と川と山の間にある、一条、二条、三条をつくして、九条に至っても十条に至っても、皆昔のままである。数えて百条に至り、生きて千年に至るとも京は依然として・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・後年、鴨、鳩、鶏がかなり大仕掛けに飼養された前後にも、猫と犬とは、私共の家庭に、一種の侵入者としての関係しか持たなかった。 私は、猫の美と性格のある面白さを認めはするが、好きになれない。子供のうちからこれは変らない傾向の一つである。・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・特に好物といえばあい鴨です。 野菜では、胡瓜とかサラダとか、見た眼に新鮮な感じのするものを好みます。殊に五月時分、はしりの胡瓜をなまのまま輪切りにして塩をつけてたべるのは、毎年その季節の楽しみの一つです。 嫌いなものといえば、何より・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・ 六月或日 Y机の前で旅券下附願につける保証書の印を加茂へもらいに送るその用の手紙書きつつ「ねえべこちゃん、これ切手はらないでいいんだろうか――印紙を」「ハハハハもやでもそういう感違いするのね ハハハハ愉快愉・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ それから四人丸く坐って祇園のまつりのはなしや、加茂の夕涼やまだ見た事のない京都の様子を御まきさんにはなしてもらった。 その間御せんさんはおっかさんの体にもたれかかってその眉のあたりを見ながらはなしをきいて居る。 御はんの時も御・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・過去です。加茂で読むんですものね。 昨夜、汽車の中どう? 涼しかって? ポンポ巻き入れとけばよかったと後で智恵が出ました。眠るときの為に。おなかが又冷えやしまいかしら。私共はあれから渋谷まですぐ省線で来たが、エビスのところで、べこがお文・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・ この村人の育うものは、鳥では一番に鶏、次が七面鳥、家鴨などはまれに見るもので、一軒の家に二三匹ずつ居る大小の猫は、此等の家禽を追いまわし、自分自身は犬と云う大敵を持って居るのである。 人通りのない往還の中央に五六人きたない子がかた・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫