・・・矢部の前で、十一、二の子供でも叱りつけるような小言を言ったことなどもからっと忘れてしまっているようだった。「うまいことに行った。矢部という男はかねてからなかなか手ごわい悧巧者だとにらんでいたから、俺しは今日の策戦には人知れぬ苦労をした。・・・ 有島武郎 「親子」
・・・二三日たって民さんはなぜ近頃は来ないのか知らんと思った位であったけれど、民子の方では、それからというものは様子がからっと変ってしもうた。 民子はその後僕の所へは一切顔出ししないばかりでなく、座敷の内で行逢っても、人のいる前などでは容易に・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・眼がさめてみると、からっと晴れているのは、うれしいからな。」数枝も、なんの気なしに、そう合槌うって、朝の青空を思えば、やはり浮き浮きするのだが、それだけのことでも、ずいぶん楽しみにして寝る身がいとしく、さて、晴れたからとて、自分には、なんと・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ 毎夜、毎夜、万朶の花のごとく、ひらひら私の眉間のあたりで舞い狂う、あの無量無数の言葉の洪水が、今宵は、また、なんとしたことか、雪のまったく降りやんでしまった空のように、ただ、からっとしていて、私ひとりのこされ、いっそ石になりたいくらい・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・物旅人子供三人A 無邪気な晴れ晴れしい抑揚のある声の児B 実用的な平坦な動かない調子で話す児C 考え深い様な静かな声と身振りの児 場所小高い丘の上、四辺のからっと見はらせる所 時・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
出典:青空文庫