・・・などという、いわゆる美談佳話製造家の流儀に似てはいないだろうか。 蛍の風流もいい。しかし、風流などというものはあわてて雑文の材料にすべきものではない。大の男が書くのである。いっそ蛍を飛ばすなら、祇園、先斗町の帰り、木屋町を流れる高瀬川の・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・当時、歌人を志していた高校生の兄が大学に入る為帰省し、ぼくの美文的フォルマリズムの非を説いて、子規の『竹の里歌話』をすすめ、『赤い鳥』に自由詩を書かせました。当時作る所の『波』一篇は、白秋氏に激賞され、後選ばれて、アルス社『日本児童詩集』に・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・当時上野なる新公園の状況を記述するもの箕作秋坪の戯著小西湖佳話にまさるものはあるまい。 箕作秋坪は蘭学の大家である。旧幕府の時開成所の教官となり、又外国奉行の通訳官となり、両度欧洲に渡航した。維新の後私塾を開いて生徒を教授し、後に東京学・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫