・・・しかし、官員万能であり、時を得た人、成り上がりが幅をきかしても一般には思うにまかせない貧富の差、生活向上をねがう人間の権利に対する機会の不平等などは、平等という言葉が感情に植えられただけに、つよく意識された。国内政治の現実にその胸の思いを実・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・何故なら、その頃の士族たちは、自分に息子でもあれば何とか一つ学校でも出して当時流行の官員様に仕上げ、明治の社会に位階勲等の片端でも貰うことに果敢ない幻を描いているのが通例であった。勇造の父親が、息子に学問を許さなかった心持、生意気になると、・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・何しろ明治二十九年三十年代は日清戦争で、日本の経済事情が大きな変化をうけた時であり、一時いわゆる官員様といわれて、官僚全盛時代であったものが、新しく擡頭した金持、実業家がだんだん世間の注目の的となり、小説でも「金色夜叉」などがひろく読まれた・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・深淵と云う人は大きい官員にはない。実業家にもまだ聞かない。どんな身の上の人だろうと疑っている。そのうち誰やらがどこからか聞き出して来て、あれは戦争の時満洲で金を儲けた人だそうだと云う。それで物珍らしがる人達が安心した。 建築の出来上がっ・・・ 森鴎外 「鼠坂」
・・・また車丁等には、上、中、下等の客というこころなくして、彼は洋服きたれば、定めてありがたき官員ならん、此は草鞋はきたれば、定めていやしき農夫ならんという想像のみあるように見うけたり。上等、中等の室に入りて、切符しらぶるにも、洋服きたる人とその・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫