・・・ 音楽における律動的要素の由来は、学問的に言えばなかなかむつかしい問題であろうが、素人流に言えば、要するに人間という生理的機関の構造によって規定されたいろいろの物理的振動の週期性、感官や運動機関の慣性と弾性と疲労とから来る心理的な週期性・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これほどに有力な感官の分析総合能力が捨てて顧みられない一つの理由は、その与えるデータが数量的でないためである。しかし、数量的のデータを与える事が必ずしも不可能とは思われない。適当なスケールさえ作ればこれは可能になる。たとえばピアノの鍵盤や、・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ 器械文明が発達すれば、精密なことは器械がしてくれるから人間はだんだん無器用になってもいいかというに、そうではなくて精密な器械を使うにはやはり精密な感官を要するので、器械の発達につれて人間も発達しなければ間に合わない。大和魂だけで器械を・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・もうそう時々帰って来るには及ばぬ……とカンカン。誰れか余所の伯母さんが来て寸を取っているらしい。勘定を持って来た。十五円で御釣りが三円なにがし。その中の銀一枚はこれで蕎麦をおごろうと御竹さんの帯の間へ。残りは巾着へ、チャラ/\と云うも冬の音・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・全く何も比較の尺度のない一様な緑の視界はわれわれの空間に対する感官を無能にするらしい。 途中から文科のN君が一緒になった。三人のプレイが素人目に見てもそれぞれちゃんとはっきりした特徴があって面白い。クラブと球との衝撃によって生ずる音の音・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・ 近代の物質的科学は人間の感官を追放することを第一義と心得て進行して来た。それはそれで結構である。しかしあらゆる現代科学の極致を尽くした器械でも、人間はおろか動物や昆虫の感官に備えられた機構に比べては、まるで話にもならない粗末千万なもの・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・光の場合の不規則は人間の感官認識能力の低度なおかげで「見えない」から平気であるが、現在の場合は「見える」からかえって困るのである。盲者の幸福がここにもある。 とにかくこういうふうに考えれば、完全週期的な縞と不規則な縞とをひとまとめに論ず・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 三 どうも自分の詩の世界は自分のからだの生理的機能と密接にからみ合っていて直接な感官の刺激によってのみ活動しているのではないかという気がするのである。これはあまり自慢にならない話のようである。しかし詩人の中にも・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・それで、もし一度とんびの嗅覚あるいはその代用となる感官の存在を仮定しさえすれば、すべての問題はかなり明白に解決するが、もしどうしてもこの仮定が許されないとすると、すべてが神秘の霧に包まれてしまうような気がする。 これに関する鳥類学者の教・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・何か嗅覚類似の感官にでもよるのか、それとも、偶然工場に舞い込んだ一匹が思いもかけぬ甘納豆の鉱山をなめ知っておおぜいの仲間に知らせたのか、自分には判断の手掛かりがない。 それはとにかく、現代日本の新聞の社会面記事として、こういうのは珍しい・・・ 寺田寅彦 「破片」
出典:青空文庫