・・・いかにも関東の古寺らしく、大まかに寂び廃れた趣きよし。関西の古寺とは違う。雰囲気が。 小僧夕方のお勤め。木魚の音。やがて背のかがんだ年よりの男が別な小僧をつれて出て来、一方の大きい浅草観音のと同じ扉をギーとしめ、こっちに来て賽銭箱をあけ・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・ 体の小柄な、黒い顔のテカテカした年より大変老けて見える父親は、素末な紺がすりに角帯をしめて、関西の小商人らしい抜け目がないながら、どっか横柄な様な態度で、主婦の事を、 お家はん、お家はん。と云って、話して居た。 此・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・南画会が小室翠雲と関西派との衝突で解散した由。残暑をお大切に。本当にお大切に。 九月十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 九月十一日 第十一信 きょうはひどく風が吹くので暑さが乾いて吹きとばされて居りますね。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
○手帖、 その間から新聞の切抜 カスト ダアカストするそのキカイとカストとを二つながら製造する目ろみ、○「まだ関西にもこれはないそうですから いろいろ研究しているんです、しらんぷりして。」○・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
・・・私は『鋲』『主潮』『関西文学』その他を見て編輯に従事している若い活動家が闘っているであろうさまざまの、今日の情勢独特の困難を想像した。そしてこれらの雑誌がともかく刊行されているのは主として東京以西あるいは近隣の地方都市においてであって、東北・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
この秋文展と殆ど同時に関西美術展というのが開催された。 病気からすっかり丈夫にならないので、明治大正美術展も見られなかったし、このときも行かれず、残念に思った。新聞に代表的な作品の写真がのったなかに、上村松園の作品があ・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
・・・ 東北の生れで孤子だそうで二十二でおととし関西の女学校を出たと云った。 女はうす赤い沢山の髪をおっかぶさる様に結んで鼻は馬鹿馬鹿しくうすくてツーンとした変な感じのする顔を持って居た。 でもそんなに不器量じゃあない。 紋八二重・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 雨あがりだから、おっとりした関西風の町並、名物の甃道は殊更歩くに快い。樟の若葉が丁度あざやかに市の山手一帯を包んで居る時候で、支那風の石橋を渡り、寂びた石段道を緑の裡へ登りつめてゆく心持。長崎独特の趣きがある。実際、長崎という市は、い・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・を主とする茶道が、関西にしても関東にしても大ブルジョアの間にだけ、嗜好されているという現実である。骨董で儲けるには茶器を扱って大金持の出入りとならなければ望みはない。今日日本の芸術の特徴とされている「さび」は常人の日暮しの中からは夙に蒸発し・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・ 従来文学が中央へばかり集ってしかもそこで類型化し衰弱しているように見える昨今、文学の地方分散の情勢が招来されつつあることは、朝鮮・満州などの文学的動勢に対する中央の文壇の関心を見ても、九州文学、関西文学などの活溌さを見ても、将来の文学・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
出典:青空文庫