・・・しかし本館のほうにいた水上理学士は障子にあたって揺れる気波を感知したそうである。また自分たちの家の裏の丘上の別荘にいた人は爆音を聞き、そのあとで岩のくずれ落ちるような物すごい物音がしばらく持続して鳴り響くのを聞いたそうである。あいにく山が雲・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・それはとにかくこの善良愛すべき社長殿は奸智にたけた弁護士のペテンにかけられて登場し、そうして気の毒千万にも傍聴席の妻君の面前で、曝露されぬ約束の秘事を曝露され、それを聞いてたけり立ち悶絶して場外にかつぎ出されるクサンチッペ英太郎君のあとを追・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ために半ばはこの自分を追跡する暗影を振り落とすためにアフリカに渡ってヘルワンの観測所の屋上で深夜にただ一人黄道光の観測をしていた際など、思いもかけぬ砂漠の暗やみから自分を狙撃せんとするもののあることを感知したそうである。この夜の顛末の物語は・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・都市のことを言うに臨んで公園の如き閑地の体裁について多言を費すのは迂愚の甚しきものであろう。昭和二年六月記 永井荷風 「上野」
・・・の創作態度において感知することのできた作者の「作家」というものについての理解が、作品中にはっきり姿をあらわしている点、特に多くの注意を喚起した。 農村のはてしない収奪と資本主義の高利貸搾取と二重の重圧によって祖先伝来の樹木さえ失い「樹の・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・という一冊の本が目につき、目次を見ると、文章の類型と作家という章に谷崎潤一郎氏と志賀直哉氏という項があり、今度の本の著者波多野完治氏が当時その研究を一部発表されたものであったことがわかったのであった。 新しくされた興味をもって、その本の・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・人間の可憐さ、狡猾さ、奸智、無邪気さ、あらゆる強烈な欲望が描かれていて、そこに登場する婦人も、決して一様ではない。マクベス夫人のようにおそろしい女から、リア王の三人娘のような諸性格、ロミオとの悲しい愛に命をおとしたジュリエットのような姫から・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ロマンティック時代の小説のように、これもまた一種の善玉悪玉である奸智に長けた心、ヒステリックな神経的行動の誇張の中にないことも明らかである。 以前プロレタリア作家の特等席ということが言われたことがあった。この言葉は左翼運動の他の場面に働・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ それを今まで、今夜ほど明らかに感知しなかったと云ってよい。自分の生活では、無心、女らしい可愛い浅はかさ、などと云うものが、決してあるがままでは存在し得ない有様なのだ。 僅か一時間足らずの話の間に、其等、自分にとっては、意義ある多く・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・たとえば我々はある人の顔の筋肉が動くのを見て、その人の喜怒哀楽やまたそれ以上に複雑なさまざまの心持ち・思想などを感知する。我々の眼に映じたその微かな筋肉の動きと我々の感じたその内生とは、実際全く似よりのないものである。この二つは何ゆえに直接・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫