・・・子どもの大勢ある細君の代わりに十三四のクイティの女をめとった商売人上がりの仏蘭西の画家です。この聖徒は太い血管の中に水夫の血を流していました。が、唇をごらんなさい。砒素か何かの痕が残っています。第七の龕の中にあるのは……もうあなたはお疲れで・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・詩人、画家、批評家、新聞記者、……まだある。息子、兄、独身者、愛蘭土人、……それから気質上のロマン主義者、人生観上の現実主義者、政治上の共産主義者……」 僕等はいつか笑いながら、椅子を押しのけて立ち上っていた。「それから彼女には情人・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・しかしわたしは画架に向うと、今更のように疲れていることを感じた。北に向いたわたしの部屋には火鉢の一つあるだけだった。わたしは勿論この火鉢に縁の焦げるほど炭火を起した。が、部屋はまだ十分に暖らなかった。彼女は籐椅子に腰かけたなり、時々両腿の筋・・・ 芥川竜之介 「夢」
・・・あの烏の風見のある屋根の高い家の中に一人の画家がいるはずだ。その人はたいそう腕のある人だけれどもだんだんに目が悪くなって、早く療治をしないとめくらになって画家を廃さねばならなくなるから、どうか金を送って医者に行けるようにしてやりたい。おまえ・・・ 有島武郎 「燕と王子」
沢本と瀬古とがとも子をモデルにして画架に向かっている。戸部は物憂そうに床の上に臥ころんでいる。沢本 おい瀬古、ドモ又がうなっているぞ、死ぬんじゃあるまいな。瀬古 僕も全くうなりたくなるねえ、死にたくなるね・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・天才画家の花田は死んでしまうんだ。ほんとうにもうこの世の中にはいなくなってしまうんだ。その代わり花田の弟というのがひょっこりできあがるんだ。それが俺さ。そうしておまえのハズさ。とも子 ははあ……だいぶわかってきてよ。花田 な。そこ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 要するに、其の色を見せることは、其の人の腕によることで、恰も画家が色を出すのに、大なる手腕を要するが如しだ。 友染の長襦袢は、緋縮緬の長襦袢よりは、これを着て、其の色を発揮させるに於いて、確に容易である。即ち友染は色が混って居るが・・・ 泉鏡花 「白い下地」
・・・梅水の主人は趣味が遍く、客が八方に広いから、多方面の芸術家、画家、彫刻家、医、文、法、理工の学士、博士、俳優、いずれの道にも、知名の人物が少くない。揃った事は、婦人科、小児科、歯科もある。申しおくれました、作家、劇作家も勿論ある。そこで、こ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・この噂の虚実は別として、この新聞を見た若い美術家の中には椿岳という画家はどんな豪い芸術家であったろうと好奇心を焔やしたものもまた決して少なくないだろう。椿岳は芳崖や雅邦と争うほどな巨腕ではなかったが、世間を茶にして描き擲った大津絵風の得意の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 北方派の画家等にして、南欧の明るい風光に、一たび浴さんとしないものはない。彼等は、仏蘭西に行き、伊太利に行くを常とした。しかし、そこはまた、彼等にとって、永住の地でなかったのである。伊太利の空を描いても、知らず北欧の空の色が、描き出さ・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
出典:青空文庫