・・・ そうしてその紅葉と黄葉との間をもれてくる光がなんとも言えない暖かさをもらして、見上げると山は私の頭の上にもそびえて、青空の画室のスカイライトのように狭く限られているのが、ちょうど岩の間から深い淵をのぞいたような気を起させる。 対岸・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・おまえが帰ると、この画室の中は荒野同様だ。僕たちは寄ってたかっておまえを讃美して夜を更かすんだよ。もっともこのごろは、あまり夜更かしをすると、なおのこと腹がすくんで、少し控え気味にはしているがね。とも子 なんて讃美するの。ともの奴はおか・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・この画家は欧羅巴を漫遊して帰ると間もなく眺望の好い故郷の山村に画室を建てたが、引込んで研究ばかりしていられないと言っては、やって来た。 高瀬はこの人が来ると、百姓画家のミレエのことをよく持出した。そして泉から仏蘭西の田舎の話を聞くのを楽・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・日本でのんだいちばんうまいコーヒーはずっと以前にF画伯がそのきたない画室のすみの流しで、みずから湯を沸かしてこしらえてくれた一杯のそれであった。 コーヒーに限らず、デパートの商品でも、あのようにたくさんにあるものの中で自分の趣好に適合す・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・絵具商のタンギイ爺さんというのがセザンヌ一派を熱愛して、たまにセザンヌの絵を求めてくる人があると、画室へ自分が案内して選ばせたのだそうですが、その画室には、一枚のキャンバスに小さいモティブの絵がいくつか別々に描かれていて、貧しい愛好家は一ル・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 富貴な美しいモナ・リザを描くとき、レオナルドがどんなに心をつくして画室をかざり、音楽を奏させ、彼女をたのしくあらせようとしたかという情景は、レオナルド・ダ・ヴィンチを主人公としてメレジェコフスキーが書いた「先駆者」という歴史小説に詳細・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫