・・・ 白崎は思わず唸ったが、やがて昂奮が静まって来ると、がっくりしたように、「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がはいるんだ」 と、呟いた。今日 復員列車といおうか、買い出し列車といおうか、汽車は震・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・もう柵により掛らねば立っておれないくらい、がっくりと力が抜けていたのだ。向う正面の坂を、一頭だけ取り残されたように登って行く白地に紫の波型入りのハマザクラを見ると、寺田の表情はますます歪んで行った。出遅れた距離を詰めようともせず、馬群から離・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・隠れ家がなければ、ここで死ぬのだと思って、がっくり倒れた。けれども不思議にも前のように悲しくもない、思い出もない。空の星の閃きが眼に入った。首を挙げてそれとなくあたりをした。 今まで見えなかった一棟の洋館がすぐその前にあるのに驚いた。家・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 箪笥や鏡台なんか並んでいる店の方では、昨夜お座敷の帰りが遅かったとみえて、女が二人まだいぎたなく熟睡していて、一人肥っちょうの銀杏返しが、根からがっくり崩れたようになって、肉づいた両手が捲れた掻巻を抱えこむようにしていた。 お絹は・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・どことなくいつもと変って陰気が目に見えて居る様な気をして私のかおを見るとだまったまんま、細いしなやかな首を私の肩にがっくりともたせかけてしまった。「どうして? 何かかなしい事があるの? 私にどうか出来る事ならするけど――」せまい額を見ながら・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
出典:青空文庫