・・・ 処を沖へ出て一つ暴風雨と来るか、がちゃめちゃの真暗やみで、浪だか滝だか分らねえ、真水と塩水をちゃんぽんにがぶりと遣っちゃ、あみの塩からをぺろぺろとお茶の子で、鼻唄を唄うんだい、誰が沖へ出てベソなんか。」 と肩を怒らして大手を振った・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・湯は沸らせましたが――いや、どの小児衆も性急で、渇かし切ってござって、突然がぶりと喫りまするで、気を着けて進ぜませぬと、直きに火傷を。」「火傷を…うむ。」 と長い顔を傾ける。 二「同役とも申合わせまする事・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ と込上げ揉立て、真赤になった、七顛八倒の息継に、つぎ冷しの茶を取って、がぶりと遣ると、「わッ。」と咽せて、灰吹を掴んだが間に合わず、火入の灰へぷッと吐くと、むらむらと灰かぐら。「ああ、あの児、障子を一枚開けていな。」 と黒・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・ と一口がぶりと遣って、悵然として仰反るばかりに星を仰ぎ、頭髪を、ふらりと掉って、ぶらぶらと地へ吐き、立直ると胸を張って、これも白衣の上衣兜から、綺麗な手巾を出して、口のまわりを拭いて、ト恍惚とする。「爽かに清き事、」 と黄色い・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・この間に、おりく茶を運ぶ、がぶりとのむ。 はッはッはッはッ。撫子弱っている。村越 いや、召使い……なんですよ。七左 いずれそりゃ、そりゃいずれ、はッはッはッ、若いものの言う事は極っておる。――奥方、気にせ・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
・・・(呑口を捻――親仁、またそこらへ打倒れては不可いよ。人形使 往生寂滅をするばかり。(がぶりと呑んで掌別して今日は御命日だ――弘法様が速に金ぴかものの自動車へ、相乗にお引取り下されますてね。万屋 弘法様がお引取り下さるなら世話はないが・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 急に不快になって、さらにウイスキイをがぶりと飲む。こりゃ、もう駄目かも知れない。しかし、ここで敗退しては、色男としての名誉にかかわる。どうしても、ねばって成功しなければならぬ。「恋愛と淫乱とは、根本的にちがいますよ。君は、なんにも・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・夕食の少しまえに、私はすぐ近くの四十九聯隊の練兵場へ散歩に出て、二、三の犬が私のあとについてきて、いまにも踵をがぶりとやられはせぬかと生きた気もせず、けれども毎度のことであり、観念して無心平生を装い、ぱっと脱兎のごとく逃げたい衝動を懸命に抑・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫