・・・母が私にがみがみおこって来るときがあります。そしてしまいに突拍子もないののしり方をして笑ってしまうことがあります。ちょっとそう云った気持でした。私の空想はその言葉でぼろ船の底に畳を敷いて大きな川を旅している自分を空想させました。実際こんなと・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 中隊長は歩きながら、腹立たしげに、がみがみ云った。「場合によっては銃剣をさしつけてもかまわん。あいつが、パルチザンと策応して、わざと道を迷わしとるのかもしれん。それをよく監視せにゃいかんぞ!」「はい。」 松木は、若し交代さして・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・ 仁助は、従弟が皆に笑われたり、働きが鈍かったりすると、妙に腹が立つらしく、殊更京一をがみがみ叱りつけた。時には、彼の傍についていて、一寸した些事を一々取り上げて小言を云った。桃桶で汲む諸味の量が多いとか、少いとか、やかましく云った。・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・ただ、もう、私のチョッキのボタンがどうのこうの煙草の吸殻がどうのこうの、そんなこと、朝から晩まで、がみがみ言って、おかげで私は、研究も何も、めちゃめちゃだ。おまえとわかれて、たちどころに私は、チョッキのボタンを全部、むしり取ってしまって、そ・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の水準が定められ、喧しくがみがみ云わない代りに多くも期待しないという状態にあるのを、自分は飽足らなく思う。そうさせて置く方もして置く方も、淋しい。どうぞ、もう一息のところぐっと深くなって、真個に私共の要求す・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・ 隠居は、川窪がそう金の事などにがみがみしない家なのを幸にして、いずれ返さずばなるまい位に思って居るので、あまり張のない栄蔵のかけ合位ではさほど急いた気持にもならず、夜話しに息子と三十分ばかり相談する位の事で、これぞと云う方針などは立て・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・またこの伯母は、主人がたまに帰って来てもがみがみ叱りつけてばかりいた。主人の僧侶は、どんな手ひどいことを伯母から云われても、表情を怒らしたことがなかった。「お光、お前はそんなこと云うけれども、まアまア、」 といつも云うだけで、どうい・・・ 横光利一 「洋灯」
出典:青空文庫