・・・は感じないところを見ると、やはり平均気温の高いということが涼しさの第一条件でなければならない。そうしてその平均気温からの擬週期的変化が第二条件であると思われる。この変化は必ずしも低温の方向に起らなくてもいいということは、暑中熱湯を浴びる実験・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・尤も雲の形状運動や、風向、気温のごとき今日のいわゆる気象要素と名づくるものの表示に拠りたる事もあれど、同時にまた動物の挙動や人間の生理状態のごとき綜合的の表現をも材料としたり。かくのごとき材料も場合によりてはあえて非科学的とは称し難きも、と・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・汽車のゴーゴーという単調な重々しい基音の上に、清らかに澄みきった二つの音の流れがゆるやかな拍子で合ったり離れたり入り乱れて流れて行く。窓の外にはさらに清く澄みきった空の光の下に、武蔵野の秋の色の複雑な旋律とハーモニーが流れて行った。 大・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・近頃の研究によると火山の微塵は、明らかに広区域にわたる太陽の光熱の供給を減じ、気温の降下を惹き起すという事である。これに聯関して饑饉と噴火の関係を考えた学者さえある。 蒼空の光も何物か空中にあって、太陽の光を散らすもののあるためと考えな・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・稲の正当な発育には一定量の日照並びに気温の積分的作用が必要であって、これが不足すれば必ず凶作が来る。それで年の豊凶を予察するには結局その年の七、八月における気温や日照の積分額を年の初めに予知することが出来れば少なくも大体の見当はつくというこ・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・寒暖計を一本下げて気温を測ったりして歩きました。つるはしのような杖をさげて繩を肩にかついだ案内者が、英語でガイドはいらぬかと言うから、お前は英語を話すかときくと、いいえと言いました。すべらない用心に靴の上へ靴下をはいて、一人で氷河を渡りまし・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・彼の地における各時季の気温や、風向、晴雨日の割合などは勿論、些細な点についても知識の有無に従ってその方面の準備の有無は意外の結果を来たすであろうと考えられる。 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・なかんずく本邦学者の多年の熱心な研究のおかげで颱風の構造に関する知識、例えば颱風圏内における気圧、気温、風速、降雨等の空間的時間的分布等についてはなかなか詳しく調べ上げられているのであるが、肝心の颱風の成因についてはまだ何らの定説がないくら・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 甲板へズックの日おおいができた。気温は高いが風があるのでそう暑くはない。チョッキだけ白いのに換える。甲板の寝椅子で日記を書いていると、十三四ぐらいの女の子がそっとのぞきに来た。黒んぼの子守がまっかな上着に紺青に白縞のはいった袴を着て二・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 風雪というものを知らない国があったとする、年中気温が摂氏二十五度を下がる事がなかったとする。それがおおよそ百年に一遍くらいちょっとした吹雪があったとすると、それはその国には非常な天災であって、この災害はおそらく我邦の津浪に劣らぬものと・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
出典:青空文庫