・・・この水を利用して、いわゆる水辺建築を企画するとしたら、おそらくアアサア・シマンズの歌ったように「水に浮ぶ睡蓮の花のような」美しい都市が造られることであろう。水と建築とはこの町に住む人々の常に顧慮すべき密接なる関係にたっているのである。けっし・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・ 仕事に熱心な佐川は、新しい芸人を見つけると、貪欲な企画熱をあげるのだった。頼み方はおだやかだが、自分の企画に悦に入っている執拗さがあった。「いや、お言葉はありがたく頂戴しまっけど、どうも、人を笑わすいう気になれまへんので……」・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・だから、どうしても、秩序とは、反自然的な企画なんだが、それでも、人は秩序に拠らなければ、生き伸びて行く事が出来なくなっている、というんだがね。君が時代に素直で、勉強を放擲しようとする気持もわかるけれど、秩序の必然性を信じて、静かに勉強を続け・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・政治家と相結んで国家的公共の事業を企画し名を売り利を釣る道を知らず、株式相場の上り下りに千金を一攫する術にも晦い。僕は文士である。文士は芸術家の中に加えられるものであるが、然し僕はもう老込んでいるから、金持の後家をだます体力に乏しく、また工・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・その他の企画についても悉く非難する必要は無論認めない。けれども大体の筋からいって、凡てこれらは政府から独立した文芸組合または作家団というような組織の下に案出され、またその組織の下に行政者と協商されべきである。惜いかな今の日本の文芸家は、時間・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのである。溝口氏が益々奥ゆきとリズムとをもって心理描写を行うようになり、ロマンティシズムを語る素材が拡大され、男らしい生きてとして重さ、明察を加えて行ったらば、・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ジャーナリズムは、天皇もので企画の貧困をしのいだ。 ここに集められているすべての文芸評論を通じて、一つのことが改めて感じられる。それは、文学はもとより理論ばかりの上に開花するものではないけれども、わたしたちが今日から明日へと生活の真実と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・もしそういう抑圧から自分を解放して繊維の組合が自主的な企画で生産をやるようになれば、組合間の健全な物質の交換で布地の流れは本当に違ってくる。 今日新聞に出た経済安定本部の経済白書をわたしたちは、どんなこころもちでよんだだろう。あの白書の・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・日常の生活感情に一定の規格が単純に太い線で描きあてられている一方、それは体の上へ描かれた縞のように、縞をつけたまま人気はそれ自身の動きの方向と角度を示している。生きて寸刻も止まらぬ人気というものを私たちは一番痛切に感じている。〔一九四〇・・・ 宮本百合子 「このごろの人気」
・・・ダットサンぐらいは女でも自由に動かして然るべきものという心持の上に立てられた企画ではなくて、ダットサンに手が出したい階級の興味、目新らしさの要求へ、女がもって行って飾られたように見えた。そういう女のひとをのせたダットサンが街角で故障をおこし・・・ 宮本百合子 「この初冬」
出典:青空文庫