・・・ドル臭しとは黄金の力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は少しもなくて、学者、宗教家、文学者、政治家の類を一笑し倒さんと意気込む人の息気をいう、ドルの文字はまたアメリカ帰りの紳士ちょう意をも含めり。詳しき説明は宇都宮時雄の君に請い・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・姉妹は源叔父に気兼ねして微笑しのみ。老婦は舷たたき、そはきわめておもしろからんと笑いぬ。「阿波十郎兵衛など見せて我子泣かすも益なからん」源叔父は真顔にていう。「我子とは誰ぞ」老婦は素知らぬ顔にて問いつ、「幸助殿はかしこにて溺れし・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・何故ならそれだと夫婦生活の黄金時代にあったときにも、その誓いも、愛撫も、ささやきも、結局そんな背景のものだったのかと思えるからだ。 権利思想の発達しないのは、東洋の婦人の時代遅れの点もあろうが、われわれはアメリカ婦人のようなのが、婦人と・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・庄屋の旦那に銭を出して貰うんじゃなし、俺が、銭を出して、俺の子供を学校へやるのに、誰に気兼ねすることがあるかい。」 おきのは、叔父の話をきいたり、村の人々の皮肉をきいたりすると、息子を学校へやるのが良くないような気がするのだったが、源作・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ トシエは、家へ来た翌日から悪阻で苦るしんだ。蛙が、夜がな夜ッぴて水田でやかましく鳴き騒いでいた。夏が近づいていた。 黄金色の皮に、青味がさして来るまで樹にならしてある夏蜜柑をトシエは親元からちぎって来た。歯が浮いて、酢ッぱい汁が歯・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・で、利休の指の指した者は頑鉄も黄金となったのである。点鉄成金は仙術の事だが、利休は実に霊術を有する天仙の臨凡したのであったのである。一世は利休に追随したのである。人は争って利休の貴しとした物を貴しとした。これを得る喜悦、これを得る高慢のため・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・おかみさんはそれを聞くと、お前の母に少し気兼ねしたように、抱いていた自分の子供に頬ずりをした。 窪田さんはこう云っているの。――監獄では大体にやっぱり労働者出身のものが、******して、*****ている。ところが、外では丁度その反・・・ 小林多喜二 「母たち」
十一月の半ば過ぎると、もう北海道には雪が降る。乾いた、細かい、ギリギリと寒い雪だ。――チヤツプリンの「黄金狂時代」を見た人は、あのアラスカの大吹雪を思い出すことが出来る、あれとそのまゝが北海道の冬である。北海道へ「出稼」に来た人達は冬・・・ 小林多喜二 「北海道の「俊寛」」
・・・殿「其の方が久しく参らん内に私は役替を仰せ付けられて、上より黄金を二枚拝領した、何うだ床間にある、悦んでくれ」七「へえ」 と張合のない男で、お役替だと云えば御恐悦でございますとか、お目出度いぐらいの事は我々でも陳べますが、七兵衞・・・ 著:三遊亭円朝 校訂:鈴木行三 「梅若七兵衞」
・・・だれに気兼ねもなく、新しい木の香のする炉ばたにあぐらをかいて、飯をやっているところだとしたのもある。 ふとしたことから、私は手にしたある雑誌の中に、この遠く離れている子の心を見つけた。それには父を思う心が寄せてあって、いろいろなことがこ・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫