・・・労銀、利子、企業所得……「一家の管理。家風、主婦の心得、勤勉と節倹、交際、趣味、……」 たね子はがっかりして本を投げ出し、大きい樅の鏡台の前へ髪を結いに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。……・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・小説家であって一向小説家らしくなかった人、政治家を志ざしながら少しも政治家らしくなかった人、実業家を希望しながら企業心に乏しく金の欲望に淡泊な人、謙遜なくせに頗る負け嫌いであった人、ドグマが嫌いなくせに頑固に独断に執着した人、更に最う一つ加・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・同じく、文化を名目とはするものゝ、珍らしい、特志の出版家でもないかぎり、出版は、資本主義機構上の企業であり、商業であり、商品であり、また今日の如く、大衆を顧客とするには、著者の趣味如何にかゝわらず、粗製濫造も仕方のないことになるのです。・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・皇室または王室と直接のつながりのあるサロンと、企業家または官吏につながっているサロンと、どう違うか。君たちのサロンは、猿芝居だというのはどういうわけか。いまここで、いちいち諸君に噛んでふくめるように説明してお聞かせすればいいのかも知れないが・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・ 二 日本の新聞の歴史は、こうして忽ち、反動的な強権との衝突の歴史となったのであるが、大正前後、第一次欧州大戦によって日本の経済の各面が膨脹したにつれて、いくつかの大新聞は純然たる一大企業として、経営されるようになって来た。・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・けれども、婦人が自身の性の本然と勤労の必要との間で板挾みにあっている今日の苦しさは、女という性によって働き仲間である男さえ大部分の者はまだ彼女たちを補助的なものとして見るのに、企業はきわめてリアリスティックにやすくて従順な労働力としての点か・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 資本主義の社会では、出版という仕事も企業としてされる。資本主義の企業は、本質として利潤をもとめている。一定の量の紙をつかって一冊の雑誌をこしらえるために或る資本がいる。その投資を出来るだけ利まわりよく回収するためには、一冊の雑誌が・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・跛な日本の経済事情そのものから生じている出版企業の不安定と結ばれた作家の経済事情の、文明国らしくないあぶなかしさがある。それらのことから派生して、日本の作家はこれまであまり個々の才能を過大に評価しすぎたし、文学創造の過程にある心的な独自性、・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・れわれの努力は、より強固にされ、明確にされた政治性――党派性によって客観的に現実を理解し、文学運動においてつかむべき当面の環をはっきり知り、それを基準として全同盟の組織活動を整理し、深め、より精力的に企業・農村の大衆の中へ活動することに払わ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・という格言を一分も忘れない企業家の利益のために使われていることの人間らしくなさに苦しんで、アメリカの労働者は、はじめてのメーデーに八時間の労働、八時間の休息、八時間の教育というスローガンをかかげたのであった。 労働時間のことは、労働組合・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
出典:青空文庫