・・・云わば彼の心もちは強敵との試合を目前に控えた拳闘家の気組みと変りはない。しかしそれよりも忘れられないのはお嬢さんと顔を合せた途端に、何か常識を超越した、莫迦莫迦しいことをしはしないかと云う、妙に病的な不安である。昔、ジァン・リシュパンは通り・・・ 芥川竜之介 「お時儀」
・・・ という、気組みの引立ちが欠けている観がある。 特に率直にいえば、一九三二年の後半期に問題は一進している。林房雄や須井一などが一応プロレタリア文学の陣営に属すように見えつつ、実質においては非プロレタリア的な作品を量において多量生産し、し・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・広い弓形の窓をとり、勿論洋風で、周囲にがっしりした木組みの書棚。壁は暗緑色の壁紙、天井壁の上部は純白、入口は小さくし、一歩其中に踏入ると、静かな光線や、落付いた家具の感じが、すっかり心を鎮め、大きく広い机の上の原稿紙が、自ら心を牽きつけ招く・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・従って、生活問題としても、はっきりそれをとりあげる気組みは持っていないと見られる。文学者の問題として声明を発表するなどということは、存じもよらぬ程度である。 宮本百合子 「一九三七年十二月二十七日の警保局図書課のジャーナリストとの懇談会の結果」
・・・ 見ない様な振りをして見て居ると、此処で、植木屋が棒をたてる穴を掘ったり、小屋の木組みをしたりして居るのが如何にも気になってたまらないらしい。 それでも、弟は只嬉しいばっかりで、そんな事に一向頓着なく仕事をはかどらせて居ると、植木屋・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ この場合、松田氏は、自身の創作的態度をますます今日の現実の核心に触れ、作品を通じて更に現実に働きかえす力をもつものとするよう、階級的な作家として必要な鍛練を自身に課す気組みにおいて云っておられるのは明らかなことと思う。 この短い文・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・この窮屈な文章が藤村の気組みの反映、或は堂々さとして現代の人々に尊敬されることに、現代文学の貧弱さ、同時に健康な若い文学的反抗心のよわさ、確信あり自信ある発展的・前進的活躍がないフラフラ雰囲気に飽きた一般人をその窮屈さも或る快感として把える・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
出典:青空文庫