・・・朝日新聞が、特別寄稿料として三十万円片山氏におくったと、ジャーナリズムでいわれているが、この金額を三六〇でわった千ドル弱で西ヨーロッパとアメリカが巡遊できようとも思えない。片山哲が首相であった時、一般都民が高い都民税に苦しんだ頃、同氏の税額・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
・・・ チンダルのアルプス紀行は、科学と文学との関係で、寺田氏とは異った典型であると思う。チンダルは科学者の心持で終始一貫して、その科学精神の勁くリアリスティックであることから独特の美を読者に感じさせる。所謂文学的な辞句の努力や文学的感情と云・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・徒輩が、この紀行文から手前勝手な利益を引っぱり出すであろうことをも、はっきりと予見している。しかも彼が敢てこの紀行文を公表するのは、上述のような人類的な確信と共に、虚偽に固執することは却って敵の攻撃に絶好の機会を与えるものであるという現実生・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・暗くて寒いドイツ生れのゲーテが、あれほど大部なイタリー紀行を書いた秘密の一つは、彼が古典芸術へ深く傾倒していたことのほかに、こういう微妙なところにもある。ロシアのように広大な国土のところでは、一口にロシアの詩人、作家といっても、黒海沿岸、南・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・この建物も、始め起工した時から近年完成する迄には数十年を閲し、信徒の中には、自分の息子を大工、左官に仕立てその労力を献じて竣工させたという話も聞いた。御堂の大さは確に、大浦天主堂の数倍あるであろう。合唱台もあるらしかった。けれども、建物がが・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・私は机にすわっていろんな人の紀行文や名所話なんかをよんで自分が出かけたような気持になって居た。 御ひるはんの時、「男だったら、どこへだって出られるんだけれども」とこんな事をかんがえながら、夢中でラッキョーの上にのって居たまっかいとうがら・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・「長崎紀行」「白い翼」などを書いた。一九二六年「伸子」完結。「一太と母」「未開な風景」等。一九二七年「伸子」を単行本にする為に手入れをしながら「高台寺」「帆」「白い蚊帳」「街」「一本の花」等を書く。・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・それが、野ざらしをこゝろに風のしむ身かな秋十とせ却つて江戸をさす古郷にはじまる「野ざらし紀行」以後の一貫した態度であることは十分頷ける。元禄七年五十一歳で生涯を終るまでの十年、芭蕉はきびしく生活と芸術の統一を護っ・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・中河与一の南洋紀行。吉行エイスケの中国もの。それぞれ、確に日本以外の外国をとり入れ、それを主題としている点では一見国際的であるらしく思える。 では、そういう諸作品が、何を主眼として外国をとり入れているか? 第一に、主題の異国的な目新しさ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に生じている。「金色夜叉」は一世を風靡したが、硯友社の戯作者的残滓に堪え得なかった北村透谷は、初めて日本文学の上にヒューマニティの提唱をもって立ち現れた。高く、広く、輝かしく飛翔せんと欲する・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
出典:青空文庫