・・・しかし、この、近代科学から見放された人間の感覚器を子細に研究しているものの目から見ると、これらの器官の機構は、あらゆる科学の粋を集めたいかなる器械と比べても到底比較にならないほど精緻をきわめたものである。これほど精巧な器械を捨てて顧みないの・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・死んだ無機的団塊が統整的建設的叡知の生命を吹き込まれて見る間に有機的な機構系統として発育して行くのは実におもしろい見物である。 こういう場合に傍観者から見て最も滑稽に思われることは、この有機的体系の素材として使用された素材自身、もしくは・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ この火山の機巧の秘密を探ろうと努力している多くの熱心な元気な若い学者たちにきわめて貴重なデータを供給するために、陸地測量部の人たちが頻繁な爆発の危険に身命をさらしながら爆発の合い間をねらっては水準測量をしている。その並み並みならぬ労苦・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・また同じ島に滞在中のある夜琉球人の漁船が寄港したので岸の上から大声をあげて呼びかけたら、なんと思ったかあわてて纜をといて逃げうせ、それっきり帰って来なかったそうである。カラフトでは向こうの高みから熊に「どなられて」青くなって逃げだしたことも・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・器械の機構を何も知らないものの眼で見ていると、その豆電燈の明滅が何を意味するのか全く見当がつかない。ただ全く偶然な蛍火の明滅としか思われないであろう。しかし、この機構の背後には色々の人間がさまざまの用談をし取引を進行させており、あらゆる思惟・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかし、グリーンホテルを緑屋などと訳してみた覚えは全然ないのであるが、いつか一度ぐらいひょっとそんな事を考えてそれきり忘れていたのが夢という現象の不思議な機巧によって忘却の闇の奥から幻像の映写幕の上に引き出されたのではないか、そうとでも考え・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・しかしあらゆる現代科学の極致を尽くした器械でも、人間はおろか動物や昆虫の感官に備えられた機構に比べては、まるで話にもならない粗末千万なものであるからおかしいのである。これほど精巧な生来持ち合わせの感官を捨ててしまうのは、惜しいような気がする・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 今度の伊豆地震など、地震現象の機構の根本的な研究に最も有用な資料を多分に供給するものであろうが、学者の熱心がいかに強くても研究資金が乏しいため、思う研究の万分の一もできないであろうから、おそらくこの貴重な機会はまたいつものように大部分・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ しかし如何なる機巧でその火山のその時の活動が起ったか、また如何なる力の作用でその地辷りを生じたかを考えてみる事は出来る。これに対する答としては更に色々な学説や臆説が提出され得る。これが源因の第二段階である。例えば地殻の一部分にしかじか・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・ 池の表面の氷結した上に適度の降雪があった時に、その面に亀甲形の模様ができる、これには、一方では弾性的不安定の問題、また対流の問題なども含まれているようであるが、この亀甲模様の亀甲形の中心にできる小さな穴から四方に放射して、「ひとで」形・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
出典:青空文庫