・・・人生の路上で受けた日常の恩を忘れず記載し、又人生の路上で受けた不当な軽蔑や無視については生涯それを忘却することの出来ない執拗な人間性の姿がある。高をくくって軽く動かそうとされると、猛然癇を立てるけれども、所謂情理をつくして折入ってこちらの面・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・これだけの事を完成するのは、極て容易だと思うと、もうその平明な、小ざっぱりした記載を目の前に見るような気がする。それが済んだら、安心して歴史に取り掛られるだろう。しかしそれを敢てする事、その目に見えている物を手に取る事を、どうしても周囲の事・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・進んで専門的の記載となると、いよいよ談が面倒である。しかし私はクノオ・フィッシェルの四冊になって出ているファウスト研究を最尊重する。そこであの本の内容をほとんど全部書いて「ファウスト考」と題して文芸委員会へ出して置いた。それから作者の伝記の・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫