・・・たのであったが、亡父が中学校や女学校の校長として、あちこち転任になり、家族も共について歩いて、亡父が仙台の某中学校の校長になって三年目に病歿したので、津島は老母の里心を察し、亡父の遺産のほとんど全部を気前よく投じて、現在のこの武蔵野の一角に・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・「ケチねえ、一ハラ気前よく買いなさい。鰹節を半分に切って買うみたい。ケチねえ。」「よし、一ハラ買う。」 さすが、ニヤケ男の田島も、ここに到って、しんから怒り、「そら、一枚、二枚、三枚、四枚。これでいいだろう。手をひっこめろ。・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・だからあたしたちは、お金のありったけを気前よくぱっぱっと使って見せなければならなくなるのよ。そうするとあなたたちはまた、東京で暮して来た奴等は、むだ使いしてだらしがないと言うし、それかと言って、あなたたちと同様にケチな暮し方をするともう、本・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・なかなか隅っこにおけんのや。何しろ胡蝶さんが、あの人に附文をしたんですさかえ」「胡蝶は僕も一番芸者らしい女だと思う」「神田で生れたんですもの。なかなか気前のいい妓や。延若を喰わえだして、温泉宿から電報で家へお金を言ってこようという人・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・「今度の旦那は気前が実にいいなあ。」とつぶやきながら、ばけもの給仕は幕の中にはいって行きました。そこでテジマアは、ナイフをとり上げて皿の上のばけものを、もにゃもにゃもにゃっと切って、ホークに刺して、むにゃむにゃむにゃっと喰ってしまいまし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・二人の愛のゆるがない調和が流れているけれども、はっきりと外界に向って目をみひらき、媚びるところの一つもない口元を真面目に閉じているイエニーの顔つきには、人生と真向きに立っている妻の毅然とした力が感じられる。 この写真はいつ何処でとられた・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・などにさえ、私たちは感動し、毅然とした人間精神の美しさに詩と慰藉とを与えられた。人間が人間を生かし殺す力の媒介物たる金銭というものの魔術性をあらわにし、それが近代社会を支配する大怪物として蓄積されてゆく過程を明らかにして、人間性の勝利の実質・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・そして、緻密な理論的考察と、自由な心の持つ新鮮な覇気とは、アメリカを毒す、余りに群衆的な輿論から毅然として、彼女の道をよき改革へ進めますでしょう。 斯ういう婦人の裡には、真個に跪拝すべきよき力が漲って居ると思います。時には、うんざりさせ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・新聞は、群集した区民に向って、気前よく米、麦、大豆、乾パン類を分配している光景のスナップを掲載した。 それはこの一月二十一日ごろのことであったと思うが、二十四日の新聞には、農林省で、米の強制供出案をもっていることと、警視庁が「板橋事件」・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ この毅然とした数行には、この作家が断定しにくい問題に対したときに示す機智・燕がえしの修辞法は一つもない。真正面から、歴史の現実は、かくある、という事実を憚らず語っている。これは文学の言葉である。同時に政治の言葉でもある。なぜなら、政治・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
出典:青空文庫