・・・けれども、ところどころ作者の気取りが目について、それがなんだか、やっぱり古い、たよりなさを感じさせるのだ。お年寄りのせいであろうか。でも、外国の作家は、いくらとしとっても、もっと大胆に甘く、対象を愛している。そうして、かえって厭味が無い。け・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・けれども、少し気取りすぎて、きざなところがある。ハイカラすぎる。芭蕉が続けて、 此筋は銀も見知らず不自由さよ 少し濁っている。ごまかしている。私はこの句を、農夫の愚痴の呟きと解している。普通は、この句を「田舎の人たちは銀も見知ら・・・ 太宰治 「天狗」
・・・あねご気取りが好きなようであった。私が警察に連れて行かれても、そんなに取乱すような事は無かった。れいの思想を、任侠的なものと解して愉快がっていた日さえあった。同朋町、和泉町、柏木、私は二十四歳になっていた。 そのとしの晩春に、私は、また・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・頑固とかいう親爺が、ひとりいると、その家族たちは、みな不幸の溜息をもらしているものだ。気取りを止めよ。私のことを「いやなポーズがあって、どうもいい点が見つからないね」とか言っていたが、それは、おまえの、もはや石膏のギブスみたいに固定している・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・けれども、そこで降りてみて、いいようだったら、そこで一泊して、それから多少、迂余曲折して、上諏訪のあの宿へ行こう、という、きざな、あさはかな気取りである。含羞でもあった。 汽車に乗る。野も、畑も、緑の色が、うれきったバナナのような酸い匂・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・ありきたりの気取りに対するたたかいです。見えすいたお体裁に対するたたかいです。ケチくさい事、ケチくさい者へのたたかいです。 私は、エホバにだって誓って言えます。私は、そのたたかいの為に、自分の持ち物全部を失いました。そうして、やはり私は・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・冷い気取りは、最高の愛情だ。僕は、須々木さんを見て、いつも、それを感じていました。」「おれだって、いのちの糧を持っている。」 低くそう言って、へんに親しげに青年の顔をしげしげ眺めた。「存じて居ります。」「一言もない。おれは、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・しかしまた、きざに大先生気取りして神妙そうな文学概論なども言いたくないし、一つ一つ言葉を選んで法螺で無い事ばかり言おうとすると、いやに疲れてしまうし、そうかと言って玄関払いは絶対に出来ないたちだし、結局、君たちをそそのかして酒を飲みに飛び出・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・ただ一つはなはだしく不満に思われたのは、せっかくの実写に対する説明の言葉が妙に気取り過ぎていて、自分らのような観客にとっていちばん肝心の現実的な解説が省かれていることであった。たとえば場面が一転して、海上から見た島山の美しい景色が映写された・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・昔自分達が若かった頃のクリスチャンのように妙に聖者らしい気取りが見えなくて感じのいい人達のようである。 この団体がここを引上げるという前夜のお別れの集りで色々の余興の催しがあったらしい。大広間からは時々賑やかな朗らかな笑声が聞こえていた・・・ 寺田寅彦 「高原」
出典:青空文庫