・・・ 斯ういう婦人の裡には、真個に跪拝すべきよき力が漲って居ると思います。時には、うんざりさせてしまうような調子の高い陽気さも彼女の裡にはしっくりと融和されて、女性の強靭な弾力を輝やかせる一色彩となりますでしょう。 彼女こそは愛すべき永・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 真の愛に跪拝するものが、どうして、不死の霊魂の栄を見ないで居られよう。 又如何うして、あらゆる幸福から虐げ追われた不幸な人々の魂の吐息に耳を傾けずに居られよう。 今、此の静安な夜の空の下に、深く眠る幸福な人々よ、 又、終夜・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・文学精神の前に跪拝している。自分のその文章などは「末世の僧の祖師を売る者、妄言当死」と迄頭を垂れている。もしそのような芸術至上の帰依に満ちた芸心があるならば、佐藤氏も「モスクワ」が芸術品かそうでないか位は嗅ぎわけ得て然るべきであった。或る作・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・しっかりとくんだ手を胸の上にのせて、汗ばんだ額を仰向けながら、自分達を透して輝く愛の前に跪拝してしまうのである。 そういう激しい亢奮が、生理的に彼女を刺戟するときでも、彼女は決して、具体的な対象を彼以外に求めようという気さえもなかった。・・・ 宮本百合子 「無題(三)」
・・・ある者は自然の前に跪拝し、ある者は自然を恋人のごとく愛慕する。そうして常に自然から教わるという心掛けを失わない。しかし日本画家は自然に対してあたかも雇主のごとき態度を持している。ある気分、ある想念を現わすために、自然を使役し、時にはそれを非・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
私がここに観察しようとするのは、「偶像破壊」の運動が破壊の目的物とした、「固定観念」の尊崇についてではない。文字通りに「偶像」を跪拝する心理についてである。しかしそれも、庶物崇拝の高い階段としての偶像崇拝全般にわたってではない。ただ、・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫