・・・古来数知れぬ刑死者の中にもおそらくは万一の助命の急使を夢想してこの激烈な楽しみの一瞬間を味わった人が少なくないであろう。 十四 日本人の名前をローマ字で書くのにいろいろの流儀がある。しかしまだ誰も Toyo ・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・それが五年も休止状態にあったのであるから、そろそろまた一つぐらいはかなりなのが台湾じゅうのどこかに襲って来てもたいした不思議はないのであって、そのくらいの予言ならば何も学者を待たずともできたわけである。しかし今度襲われる地方がどの地方でそれ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・この頃になって、自分に親しかった、そうして自分の生涯に決定的な影響を及ぼしたと考えらるるような旧師や旧友がだんだんに亡くなって行く、その追憶の余勢は自然に昔へ昔へと遡って幼時の環境の中から馴染の顔を物色するようになる。そういう想い出の国の人・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・そうかといって太平のシャンゼリゼーの大通りやボアの小道を散歩するのに、まさか弓矢や人殺し用の棍棒や台所用のパン棒を携えるわけにも行かないから、その代わりに何かしら手ごろな棒きれを持つことになったのではないかとも想像される。とにかく昔のシナで・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・ しかし多くの人が自らその学校生活の経験を振り返って見た時に、思い出に浮かんで来る数々の旧師から得たほんとうにありがたい貴い教えと言ったようなものを拾い出してみれば、それは決して書物や筆記帳に残っている文字や図形のようなものではなくて、・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・それにもかかわらず、大多数の東京市内電車の乗客は、長い休止の後に来る最初の満員電車に先を争って乗らなければ気が済まないように見える。これは自分のようなものにはほとんど了解のできない心持ちであるが、しかしよく考えてみると、これがあるいはわが国・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・八分の一の低音の次に八分の一の休止があってその次に急速に駆け上がる飾音のついた八分の一が来る。そこでペダルが終わって八分の一の休止のあとにまた同じような律動が繰り返される。 この美しい音楽の波は、私が読んでいる千年前の船戦の幻像の背景の・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・一景平均五分程度という急速なテンポで休止なしに次から次へと演ぜられる舞台や茶番や力技は、それ自身にはほとんど何の意味もないようなものでありながらともかくも観客をおしまいまであまり退屈させないで引きずって行くから不思議なものである。 昔見・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ただ旧師マードック先生から同じくこの事件について突然封書が届いた時だけは全く驚ろかされた。 マードック先生とは二十年前に分れたぎり顔を合せた事もなければ信書の往復をした事もない。全くの疎遠で今日まで打ち過ぎたのである。けれどもその当時は・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
出典:青空文庫