・・・無辜の良民であって、単に教会の信条に服さないとの嫌疑のために焚殺されたものは、幾十万を算するではないか。フランス革命の恐怖時代を見よ。政治上の党派をことにするという故をもって斬罪となった者は、日に幾千人にものぼっているではないか。日本幕府の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 西班牙に宗教裁判の設けられたる当時を見よ、無辜の良民にして単に教会の信条に服せずとの嫌疑の為めに焚殺されたる幾十万を算するではない歟。仏国革命の恐怖時代を見よ、政治上の党派を異にすというの故を以て斬罪となれる者、日に幾千人に上れるでは・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ 而も前に言えるが如く、斯かる天稟・素質を享け、斯かる境界・運命に遇い得る者は、今の社会には洵とに千百人中の一人で、他は皆不自然の夭死を甘受するの外はない、縦令偶然にして其寿命のみを保ち得ても、健康と精力とが之に伴わないで、永く窮困・憂・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・その後、先生が高輪の教会の牧師をして、かたわらある女学校へ教えに行った時分、誰か桜井の家名を継がせるものをと思って――その頃は先生も頼りにする子が無かったから――養子の話まで仄めかして見たのも高瀬だった。その高瀬が今度は塾の教員として、先生・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・「あなたは、クリスチャンですか。」「教会には行きませんが、聖書は読みます。世界中で、日本人ほどキリスト教を正しく理解できる人種は少いのではないかと思っています。キリスト教に於いても、日本は、これから世界の中心になるのではないかと思っ・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・私は教会は、きらいでありますが、でも、この人のお説教は、度々聞きにまいります。先日、その牧師さんが、苺の苗をどっさり持って来てくれて、私の家の狭い庭に、ご自身でさっさと植えてしまいました。その後で、私は、この牧師さんに、れいの女房の遺書を読・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・聞いてみると、これもやはりアメリカの人たちの指導のおかげか、戦前、戦時中のあの野暮ったさは幾分消えて、なんと、なかなか賑やかなもので、突如として教会の鐘のごときものが鳴り出したり、琴の音が響いて来たり、また間断無く外国古典名曲のレコード、ど・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・農民は原野に境界の杙を打ち、其処を耕して田畑となした時、地主がふところ手して出て来て、さて嘯いた。「その七割は俺のものだ。」また、商人は倉庫に満す物貨を集め、長老は貴重な古い葡萄酒を漁り、公達は緑したたる森のぐるりに早速縄を張り廻らし、そこ・・・ 太宰治 「心の王者」
・・・結構ずくめの境界である。崇拝者に取り巻かれていて、望みなら何一つわないことはない。余り結構過ぎると云っても好い位である。 ドリスは可哀らしい情婦としてはこの上のない女である。不機嫌な時がない。反抗しない。それに好い女と云う意味から云えば・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・その友だちの植えた檜の木ももう蔭をなしていたが、最近行った時には、周囲の垣がこわれて、他の墓との境界がなくなっていた。――『東京の三十年』より―― 田山花袋 「『田舎教師』について」
出典:青空文庫