・・・「常説法教化無数億衆生爾来無量劫。」 法の声は、蘆を渡り、柳に音ずれ、蟋蟀の鳴き細る人の枕に近づくのである。 本所ならば七不思議の一ツに数えよう、月夜の題目船、一人船頭。界隈の人々はそもいかんの感を起す。苫家、伏家に灯の影も漏れ・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・……あの輩の教化は、士分にまで及ぶであろうか。」「泣きみ、笑いみ……ははッ、ただ婦女子のもてあそびものにござりまする。」「さようか――その儀ならば、」……仔細ない。 が、孫八の媼は、その秋田辺のいわゆるではない。越後路から流漂した、その・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・四 狂歌師岡鹿楼笑名 前記の報条は多分喜兵衛自作の案文であろう。余り名文ではないが、喜兵衛は商人としては文雅の嗜みがあったので、六樹園の門に入って岡鹿楼笑名と号した。狂歌師としては無論第三流以下であって、笑名の名は狂歌の専門・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・しかし、芸術には、その他の場合があるばかりでなく、芸術本来の精神は、もっと自由なものであり、その自由の教化に於てこそ存在の理由があるのだと思います。 政治に於ては、党派によって、敵味方に分れていますが、芸術は、そんな不自由なものでない。・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ チャイコフスキイ団の如き、謙譲と真実と愛によってのみ民衆は教化せらるゝものと信じた。そして、彼等は、まさに身をもって、その任に当った。東西古今、真理を愛し、正義に感ずるもの、まさに、青年に如くはなかった。 クロポトキンは、「何事を・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ それ故に、課外の情操教育や、乃至人格を造る上に役立つ教化は学校教育と併行して奨励されなければならぬ急務に迫られています。児童を中心とする文学は、それ自からの中に児童の世界を展開し、生活し、観察し、思考することより描かれたものでなければ・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・一歩内面的なる、思想、人格、教化の如きに至っては、いかに強権の力でも、容易に左右することはできないのであります。 思うに、このことは、たゞ児童等の反省と自治的精神によってのみ、その結果が期待されるものと信じます。そして、かゝる情操の・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・そして、この教化は、小さき者達に、果して将来幾何の効果をもたらしたでありましょうか。 私が、もし、童話を子供達に向って語るとせば、この態度、この心をもってします。そして、書く場合に於ても、何等、それと異なるところがないでありましょう。・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・今の教育は多くの生徒を一教場の内に集めて、与えられたる教科を教うるようであるが、それでは各個人に就て深い注意を与えて各の個性の開発伸長を計ることは誠に困難な事だ。 然しそれも教師の心得次第では全く出来ぬ事ではない。ここにして思えば昔の漢・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・そして、第一義の献身的、教化的精神に立つことを回避する。それには、困苦と闘争が予想されるからだ。芸術の権威は、彼等によって、すでに軟化される。そして、表現されたものは芸術本来の姿ではなくして、畢竟自己の趣味化された技巧の芸術となって、第一義・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
出典:青空文庫