・・・つまらない事だが、私が今でもこの国この都を想い出す時に起る何となく美しい快い感じには、この些細な事もいくらかを寄与しているように思う。 諸国を旅してみてもいったん売った電車切符をまた取り戻すような国は稀であった。それで私は国々で乗った電・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また、日本はその地理的の位置から自然にいろいろな渡り鳥の通路になっているので、これもこの国の季節的景観の多様性に寄与するところがはなはだ多い。雁やつばめの去来は昔の農夫には一種の暦の役目をもつとめたものであろう。 野獣の種類はそれほど豊・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・しかしまた俗流の毀誉を超越して所信を断行している高士の顔も涼しかりそうである。しかしこの二つの顔の区別はなかなかわかりにくいようである。また、少し感の悪いうっかり者が、とんでもない失策を演じながら当人はそれと気がつかずに太平楽な顔をしている・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・しかし彼の業績は世界人類の共有財産に莫大な寄与を残した。彼はまた見方によれば一種のディレッタントであったようにも見える。しかし如何なるアカデミックな大家にも劣らぬ古典的な仕事をした。彼は「英国の田舎貴族」と「物理学」との配偶によってのみ生み・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・それらの相反するものが融合調和し相互に扶助し止揚することによって一つの完全なる全体を合成し、そうして各因子が全体としての効果に最も有効に寄与しているのでなければならない。こういうわけであるから、連句のメンバーは個性の差違を有すると同時に互い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・もとより智能を発育するには、少しは文字の心得もなからざるべからずといえども、今の実際は、ただ文字の一方に偏し、いやしくもよく書を読み字を書く者あれば、これを最上として、試験の点数はもちろん、世の毀誉もまた、これにしたがい、よく難字を解しよく・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・いわば、自分で独り角力を取っていたので、実際毀誉褒貶以外に超然として、唯だ或る点に目を着けて苦労をしていたのである。というのは、文学に対する尊敬の念が強かったので、例えばツルゲーネフが其の作をする時の心持は、非常に神聖なものであるから、これ・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・どうせ一旦女優になったからには、一生取るにも足りない毀誉褒貶の的となってのみ過るのは、余り甲斐ないことではないだろうか、過去十年の時日は、何か、更にもう一歩を期待させる。〔一九二一年十月〕・・・ 宮本百合子 「印象」
「現代日本小説大系」が刊行される意味は、ただ日本の近代文学をもう一遍よみかえし、検討し、将来の文学に寄与するという風な、すべてのこれまでの刊行会の挨拶の範囲では、使命が果されないと思う。これはまじめに日本の社会の推移を基礎に・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
・・・そのものとして成功していても、未来の文化のために寄与する価値をもたないものもある。 それらを、ごく具体的に、一般的に、実際生活と結びつけた見通しをもって話さなければならないのだ。 書きかたも研究がいる。その文芸批評を読むと、もうそれ・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
出典:青空文庫