・・・とぶっきら棒に返事しました。「ああ風の又三郎だ。」一郎と耕一とは思わず叫んで顔を見合せました。「だからそう云ったじゃないか。」又三郎は少し怒ったようにマントからとがった小さな手を出して、草を一本むしってぷいっと投げつけながら云いまし・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・翌朝、彼はぶっきら棒にいしに命じた。「飯炊くとき、おねばりとってやんな」 その次の日又重湯を運んでやり、歩けるようになる迄、粥をやるのがいしの任務であった。仙二は、苦笑しながら半分冗談、半分本気で云った。「あげえ業の深けえ婆、世・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・けれどももし何かの自然の間違いで、胎生細胞がいくつか新しくなりきらないで、人間のからだの中にのこったまま生れたとき、成長してのちある生物的な条件のもとで、その細胞が異常な細胞増殖をはじめる。そしてそれは癌という致命的な病気の名をつけられてい・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・そのとき綺羅を飾った少女たちの間に、村上けい子という最優賞の娘は、質素な紡績絣の着物に色の褪せた海老茶の袴という姿で人々を感動させたという新聞の記事が出た。私はその記事を読んで涙をこぼした。けれども、おけいちゃんがどうして受かる筈の試験をは・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
・・・仲平なぞもただ一つの黒い瞳をきらつかせて物を言う顔を見れば、立派な男に見える。これは親の贔屓目ばかりではあるまい。どうぞあれが人物を識った女をよめにもらってやりたい。翁はざっとこう考えた。 翁は五節句や年忌に、互いに顔を見合う親戚の中で・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・枝ぶりがいやにぶっきら棒である。たまに雪が降ってその枝に積もっても、一向おもしろみがない。結局東京の樹木はだめじゃないか。「森の都」だなどと、嘘をつけ、と言いたくなるほどであった。 こんなふうにして不愉快な感じがいつまでも昂じて行くとす・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫