・・・中世的世界が行詰って近世科学の時代に入った時、自己表現的なる歴史的実在の世界は、自己自身に返って新なる哲学の出立点を求めた。中世において人格的に自覚した歴史的実在の世界は、更に自然的自覚を求めて来たともいい得る。我々の自己は、そこに深く自己・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・空気のいささかな動揺にも、対比、均斉、調和、平衡等の美的法則を破らないよう、注意が隅々まで行き渡っていた。しかもその美的法則の構成には、非常に複雑な微分数的計算を要するので、あらゆる町の神経が、非常に緊張して戦いていた。例えばちょっとした調・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・ また、一昨年一二月八日に金星の日食ありて、諸外国の天文家は日本に来て測量したり。この時において、学者は何の観をなしたるか。金の魚虎は墺国の博覧会に舁つぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ならずや。 また・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・が、かく文事の一方について全権を有するその代りには、これをして断じて政事に関するを得せしめず、如何なる場合においても、学校教育の事務に関する者をして、かねて政事の権をとらしむるが如きは、ほとんどこれを禁制として、政権より見れば、学者はいわゆ・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・すればとて例の妙薬黒焼など薬剤学上に訳けの分らぬものを服用せしむ可らず、事急なれば医者の来るまで腰湯パップ又は久しく通じなしと言えば灌腸を試むる等、外用の手当は恐る/\用心して施す可きも、内服薬は一切禁制にして唯医者の来診を待つ可し。或は高・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・論者が、しきりに近世の著書・新聞紙等の説を厭うて、もっぱら唐虞三代の古典を勧むるは、はたしてこの古典の力をもって今の新説を抹殺するに足るべしと信ずるか。しかのみならず論者が、今の世態の、一時、己が意に適せずして局部に不便利なるを発見し、その・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・光輝あるわが金星音楽団がきみ一人のために悪評をとるようなことでは、みんなへもまったく気の毒だからな。では今日は練習はここまで、休んで六時にはかっきりボックスへ入ってくれ給え。」 みんなはおじぎをして、それからたばこをくわえてマッチをすっ・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ ※ 星はめぐり、金星の終りの歌で、そらはすっかり銀色になり、夜があけました。日光は今朝はかゞやく琥珀の波です。「まあ、あなたの美しいこと。後光は昨日の五倍も大きくなってるわ。」「ほんたうに眼もさめ・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・PTAの物品交換会で、数十万円の禁制品が没収されたという新聞記事は、心ある親たちと教師に、どんな感銘を与えたろう。 二 日本の文化一般について、そもそもわたしたちはどんな現実的な観念をもっているだろうか。・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・何故なら、すべての近世科学の歴史は、たとえばガリレイが十七世紀の地動説をとなえたとき、宗教裁判で罰せられ生命さえ脅かされた事実をつげている。 しかし、地球は動いているものであったから、その事実はガリレイの死後にやがては承認されることとな・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
出典:青空文庫