・・・おまけに二人とも木馬の上へ、ちゃんと跨っていたんだからな。今考えても莫迦莫迦しい次第さ。しかしそれも僕の発議じゃない。あんまり和田が乗りたがるから、おつき合いにちょいと乗って見たんだ。――だがあいつは楽じゃないぜ。野口のような胃弱は乗らない・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・いつかおおぜいで先生を引っぱって浅草へ行ってルナパークのメリーゴーラウンドに乗せたこともあったが、いかにも迷惑そうではあったが若い者の言うなりになって木馬にのっかってぐるぐる回っていた。そのころよく赤城下の骨董店をひやかして、「三円の柳里恭・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・に空襲の災難を免れていたので映画の外に芝居やレビューも追々興行されるようになったから、是非にも遊びに来るようにと手紙をもらうことも度々になったので、去年の正月も七草を過ぎたころ、見物に出かけた、その時木馬館の後あたりに小屋掛をして、裸体の女・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・器械体操では、金棒に尻上がりもできないし、木馬はその半分のところまでも届かないほどの弱々しさであった。 安岡は、次から次へと深谷のことについて考えたが、どうしても、彼が恋人を持っているとは考えられなかった。それなら……盗癖でもあるのだろ・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・ そいからねえ、 坊に、木馬買って呉れない? 一度も、坊の処へ、クリスマスのおじいちゃんが来ないんだもの。法王 よしよし可愛い児じゃ。 若しそう出来たら、買ってやろうね。子供 ええ、きっとね。 さようなら、またあ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫