・・・旧時代の文学的伝統は仮名垣魯文その他の戯作者の生きかたに伝え嗣がれており、維新と開化とに対して、江戸っ子であり旧時代の文化の代表である彼等は皮肉且つ反動として現れざるを得なかった。新興文化の先駆としての福沢諭吉の啓蒙的文筆活動、翻訳小説と、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 明治の初期の文学では、江戸末期の戯作者風な作者と黎明期の啓蒙書・翻訳文学が対立したが、尾崎紅葉の硯友社時代には、仏文学の影響やロシア文学の影響をもちながら、作家気質の伝統は戯作者気質の筋をひいていた。坪内逍遙の「当世書生気質」は、日本・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・は、そのときどきの勢に属して戯作する文学であった。そして、人間は理性あるものであって、ある状況のもとでは清潔な怒りを発するものであるということを見ないふりして益々高声に放談する文学であった。 読者は、黙ってはいても、判断しているのだ。そ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 翌日読んで、思わず考えに耽った、戯作三昧の馬琴の心持を、又思い出さずには居られない。 馬琴は、何も、眇の小銀杏が、いくら自分を滅茶にけなしたからと云って、「鳶が鳴いたからと云って、天日の歩みが止るものではない」事は知って居るのであ・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・を書いて、当時硯友社派の戯作者気質のつよい日本文学に、驚異をもたらした人であった。硯友社の文学はその頃でも「洋装をした元禄小説」と評されていたのだが、そういう戯文的小説のなかへ、二葉亭四迷はロシア文学の影響もあって非常に進歩した心理描写の小・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・今日軍需景気で絵画の偽作が横行する。それも主として日本画の贋物が多いということ、東京郊外の畑や藪が分譲となっておどろくばかりの売れ行を示しているということ。市内のデパートで百円以上の反物が飾窓に出されて数時間のうちに売れてしまうということ、・・・ 宮本百合子 「風俗の感受性」
・・・然し一方には江戸文学の伝統をその多方面な才能とともに一身に集めたような魯文が存在し、昔ながらの戯作者気質を誇示し、開化と文化を茶化しつつあった。このような形で発端を示している新しいものと旧いものとの相剋錯綜は、日本文学の今日迄に流派と流派と・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・その子宇平太は始め越中守重賢の給仕を勤め、後に中務大輔治年の近習になって、擬作高百五十石を給わった。次いで物頭列にせられて紀姫附になった。文化二年に致仕した。宇平太の嫡子順次は軍学、射術に長じていたが、文化五年に病死した。順次の養子熊喜は実・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・御承知の通り江戸時代の戯作者の作品には実にくだらないものが多いが、ああいうものを一々まじめに読んで、学問的にちゃんと整理しなくてはならないとなると、どうにもやりきれないという気がする。それよりも自分の好きなものを、時代のいかんを問わず、また・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫