・・・それは、始め火をつけたようにくゎッ/\と燃え立っていたが、今では反対に冷え切って義足のように感覚も温度もなかった。出血を止めるため傷の上方をかたく紐で縛りつけた。それで手の方へは殆んど血が通わなくなっているのだった。腕は鉛の分銅でも吊るして・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・これと同じ白衣着けたる連れの男は顔長く頬髯見事なれど歩み方の変なるは義足なるべし。この間改札口幾度か開かれまた閉じられて汽笛の止む間もなし。人来り人去っていつまでも待合の隅に居残るは吾等のみなるぞつまらなき。ようやく十二時となりて、プラット・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・恩賜の義足、恩賜の義手、何という惨酷な、矛盾錯倒した表現であろう。民草、または蒼生と、ひとりでに地面から生え、ひとりでに枯れてゆくもののような言葉でよばれた日本の幾千万の人民が、その命に何かの重大な価値を自覚する機会は、戦争という形でしか与・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫