・・・しかし映画監督がそういう魔術を日常駆使しているのは周知の事実であろう。 トーキー製作の監督者は、要するに人間の目と耳とを品玉とする魔術師である。従ってこれらの感官に関する充分な分析的な研究を基礎としてその上に彼らの芸術を最も有効に建設す・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・智能と資本とを縦横に駆使して、イギリスの良品高価に対する良品廉価生産・高賃銀低コストを目ざす科学主義工業という呼び名が、これらの人々によって、資本主義工業の弱点を補強したものとして提唱されつつあるのである。 大河内氏の著書は、鶏小舎を改・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・最高の機械と技術とが駆使されていることは明らかなのだが、ヴォルフの製作の一つ一つの態度は、それらの道具を駆使する感興というような末梢から遙にぬきんでている。私を一番感動させたのは、制作者としてヴォルフがもっているひろやかで瑞々しく複雑な情緒・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・人類の誇りである智慧さえ、玲瓏無垢な幸福をつくるために役立てられるというより、死力をつくして黒煙を噴き出し火熱をやきつかせるために駆使されているようではないか。 目前の凄じい有様にきもをひやされて、人々はこれらの現実の中に幸福はないと結・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
・・・ 今日の最新技術を駆使して高度に合理化されている重工業工場の生活が、そこで働いている優秀な勤労者たちの精神と肉体とに求めているテムポとリズムとは、どういうものであろうか。現代の科学の能力を最大限に発揮して刻々に活動している機械の速力、能・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 私は、自分の同胞が、余り惨めな法律的存在であるのを悲しく思うとともに又こちらの多くの女性が、自分等の善用すべき権利に却って駆使されるのをも見るに堪えない心持が致します。 日本にもやかましく云われる、法律的な離婚問題、離婚と云う事は・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ こうして見ると、作家は時代が苦しいとき、あながち文才を駆使して、現実整理の手腕を振うことを求められているものでもないことが、改めて思われる。然しそのことは、小説らしくない小説を書いて見せるという極く所謂小説家らしい方法、の肯定となるの・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・――まして代議士のやりあいではなく、文学について語る場合、平野氏が、軌道性なんとは変だ、おかしいと云いながら、評論家としての心の働きを、強引なその変さの活用に駆使して、わたしという生きているものの体の上に、あれだけ縦横な軌道を敷いたことは、・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・ 彼女たちは、その家政科の学識を駆使して、まず一定の生産的な社会的な勤労に従う男女はどれだけの食餌、どれだけの休養、どれだけの文化衛生費を必要とするか、客観的な標準を立てて、さておのおのの収入総額によってどれだけの不足がどの部分に生じて・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫