・・・なア、僕は役場の書記でくたばるんや。もう一遍君等と一緒に寄宿舎の飯を喰た時代に返りたい」と、友人は寝巻に着かえながらしみじみ語った。下の座敷から年上の子の泣き声が聞えた。つづいて年下の子が泣き出した。細君は急いで下りて行った。「あれやさ・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・どうせ、この老耄はくたばるのだからいいけれど、そうした道理というものはないはずじゃ。もう私は歩けないが、どこか近所に、お医者さまはありますかい。」と、老人は、やっと小さな荷物をせおってから、ききました。「じき、すこしゆくとにぎやかな町に・・・ 小川未明 「三月の空の下」
・・・君が先に出て先にくたばる術はない。僕たちを待たなくてはいかん。それまでは少くとも十年健康で待たなくてはいかん。根気が要る。僕は指にタコができた。九、これからは太宰治がじゃんじゃん僕なんかを宣伝する時になったようだ。僕なんか、ほくほく悦に入っ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・どうせ貧乏人は皆くたばるのだ。皆そう云っていらあ。ひどい奴等だよ、金持と云う奴等は。」「なぜぬすっとをしない。」爺いさんが荒々しい声で云った。 この詞は一本腕の癪に障った。「なに。ぬすっとだ。口で言うのは造做はないや。だが何を盗むの・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
出典:青空文庫