・・・これまで見たことのある厭な意地くねの悪い顔をいろいろ取りだして、白髪の鬘の下へ嵌めて、鼻へ痘痕を振ってみる。 やがて自分はのこのこと物置の方へ行って、そこから稲妻の形に山へついた切道を、すたすたと片跣足のままで駈け上る。高みに立てば沖が・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・しかし、どんなにいそがしくても、仕事はつらいとは思いませんでしたが、その印刷所のおかみさんと、それから千葉県出身だとかいう色のまっくろな三十歳前後のめしたき女と、この二人の意地くね悪い仕打には、何度泣かされたかわかりません。ご自分のしている・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・お酒を飲むと、もう、まるで気違いですし、意地くねが悪いというのか、陰険というのか、よそのひとには、ひどくあいそがいいようですけど、内の者にはそりゃもう、冷酷というのでしょうか、残忍というのでしょうか、いいえ、ほんとう、本当でございますよ。げ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・真の文学というに足りる文学は決して文学的なしねくねからは生れない。文学的なるものの底をぬいて、始めて文学に到達し得る。自身を今日の大衆の一人として自覚することの鮮明さ。大衆というものが自分をこめて置かれている今日の在り場所についての客観的な・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫