・・・而して余は神の供物を再び余のものたらしめんとするなり。汚涜の罪何をもつてかそゝがれんや。ヒソプも亦能はざるなり。苦痛、苦痛、苦痛。神よ、願くば再び彼女と相遭ふを許し給はざれ。願くば余の心に彼女を忘れしめ給へ。彼女の心に余を忘れしめ給へ。彼女・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ 白衣の祭官二人は二親の家を、同胞の家を出て行こうとする霊に優い真心のあふれる祭詞を奉り海山の新らしい供物に□□(台を飾って只安らけく神々の群に交り給えと祈りをつづける。 御玉串を供えて、白絹に被われる小さい可愛らしい棺の前にぬかず・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・死んだ母という人も余り仕合わせそうでなく、気の毒に思う心持が沁み沁みあったが、はる子は手紙も供物も送らなかった。 追っかけて手紙が来た。母という人は、はる子が来て呉れるのを楽しみにして、わざわざ別な茶器までとり揃え待っていたのに、と。母・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 朝になると私は目が醒め次第暗い叔父の枕元に新らしいそれ等の供物を並べた。 生きて居る叔父に食べ物を並べてあげる通りどこかでお礼を云われて居る様な彼の大きな掌が、「ありがとうよ、 好い子に御なり。と頭を叩いて呉れ・・・ 宮本百合子 「追憶」
出典:青空文庫